はじまりの…?[02]
「……実は、俺はカカシ先生から嫌われていると思っていました…」
「…ええ?どうしてですか?」
居酒屋で暫く飲み、お互いの事を語り合っていると以前の様に打ち解けてきて、少し酔いも回ってきているのかイルカ先生の頬もうっすら赤みが増してきている。
店を出て涼しい風が気持ち良く酔いを冷ましがてら、散歩でもと帰り道を遠回りに歩いていた。
「…いや、中忍試験前に少しあったじゃないですか?……それで…」
「あれで?いやいや、あれは…まぁ、意見の衝突位誰だってありますよ」
…とは、自分で言ったがよく考えると自分もあのあたりから彼と会話が減ってきていたのだと思い出す。
その時はああ言ったが試験が始まるまでは判断が正しかったのか少し不安もあった。
けして彼らを信じていない訳ではない。アンバランスとも言えるあの三人だが他には無い可能性も垣間見え、あとは旅で得た事の成果に期待はあった。
そして、試験が始まってしまえば想像以上の成長に安心したのだが。
あの木の葉崩しが始まりその後は皆バラバラに。
里からみれば、うちはの最後の生き残りが里を抜けたのが痛手だったのだろう。直に責任を問われはしなかったが上層部からは監督不行届きと言われ、所詮暗部出身の奴にまともな指導等出来なかったと陰口を言われもした。
その事に対して異議はなかった。
ただ、頭の中に思い浮かんだものは中忍試験選抜の時のイルカ先生の自分を睨み付ける眼差しだった。
「……それに…少し羨んでいたのかもしれません…」
呟く様な声を聞き取りイルカ先生を見た。
「…あの子達の下忍になってからの成長は凄まじいものでした…もしかしたら、俺はあの子達の力を上手く引き出していなかったのかなぁ……なんて…ハハッ、僻みですね?すみません!」
「いえ、とんでもない!…そんな事ないですよ」
驚愕した。
俺が考えていた事を彼も考えていたなんて。
きっと、俺よりもこの太陽みたいな笑顔を持っている先生ならばサスケだって里を抜けるまで考えがいかなかったのではないか?
ナルトの様に苦しくても、真っ直ぐ前を向いてそれを乗り越えていったのではないか?
……ああ、俺もこの先生を羨んでいたのだ。
「………俺もですよ」
「…は?」
「俺もイルカ先生を羨ましく思っていたんです」
「…え?…ええっ!?カカシ先生がですかっ!?…そ、そんなっ、恐れ多い!俺なんかに」
「……………………ふふ」
手を広げ上下に世話しなく動かす。その慌てぶりが、あまりに幼くて思わず吹き出してしまった。
俺の顔を見て、からかわれたのだと思ったのか少し拗ねた顔になり、口を尖らせた。
「…ちょっとぉ〜?もしかして、カカシ先生酔ってるんでしょう?…もうっ、からかわないで下さいよっ」
そんなつもりではないのだが、あまりなイルカ先生のコロコロ変わる表情に可笑しくてクスクスと笑いが止まらない。その間も、イルカ先生が「何だよも〜…」と呟く姿がこの間まで里にいた黄色い頭の少年に似ていて、それを告げると更に眉を寄せしかめっ面になった。
最近自分はこんなに笑う事があっただろうか?
もしかしたら懐かしかったのかもしれない。
「……たくっ、カカシ先生って笑い上戸だったんですね…まいったな…」
呆れているイルカ先生の近くに寄りたくなり、彼に手を伸ばした。
「……ん?何ですか?」
「イルカ先生、手を繋ぎましょう」
「……はい?」
有無を言わさずイルカ先生の手をギュッと握る。
さて進もうと歩き出すとイルカ先生が慌てた。
「ええっ!?ちょっと、カカシ先生!?」
「え〜?いいじゃないですかぁ」
「いやっ、そういう問題じゃ……」
「まあまあ」
酒の酔いも含んでいたかもしれない。何故かイルカ先生の近くに行きたくなった。
男の手を握るだなんて気持ち悪くて吐き気がする筈なのに。
イルカ先生の手はやはりと言うか皮膚が固く男特有の骨張りがあるのに、暖かくて泣きたくなる。
ナルトもこの人にそれを見たのか。
記憶のない温もりはこういうものかと感じたのだろうか。
「カカシ先生?大丈夫ですか?」
自分の手を握ったまま黙ってしまった俺に心配そうに声をかける。いつの間にか足も止まっていたらしい。
イルカ先生は唯一見える右目を覗き込んできた。
「気持ち悪くなったんですか?」
「……………です」
「ん?」
「暖かいです。……気持ち悪くなんかない」
「………カカシ先生?」
覗き込むイルカ先生に顔を近付ける。
そっと口布を下ろし、彼の唇にキスをした。
夜風にあたり少し冷たくなっていたが、軟らかい弾力のある唇が気持ち良い。もっとそれを味わってみたくて、離す時に少し舐めてみる。
突然な行為に驚愕していたのか、硬直していたイルカ先生がビクンと体を震わせた。
ジッとイルカ先生の目を見てどう反応するか伺っていると、さっき少し動いたきりずっと固まったままだった。
……そりゃ、そうだよねぇ〜……
驚愕もするか…
自分も口づけた後驚いた。
しかも、男にキスをして気持ち良いと思ってしまった。
はっきり言って自分もこの後何て言って良いかわからず、イルカ先生の行動を待っているという状態だ。
「……………………」
「…イルカ先生?」
あまりに反応しない先生に思わず声をかけた。
それでも動かないイルカ先生にそれならばとまた顔を近付ける。
「……ハッ?…あっ、ちょ、ちょっと待っ……」
あともう少しでまた唇に付くという所で、漸く我に返った先生に口を手で塞がれる。
「…む〜……チェッ」
「『チェッ』じゃあないっ!やっぱりアンタ、酔っぱらっているでしょう!?俺は女じゃない!正気に戻れっ!」
酔っぱらいの戯れだと受け止められ、少し残念に思う。
もう少し調子に乗ってみたくてイルカ先生にわざと自分の体重をかける様に抱きついた。
「え〜?イルカ先生冷たいなぁ〜…」
「ああ、もう完全に酔っぱらってるよ……」
片方には持ち帰りの書類、片方には図体のデカイ男を担いで、俺にどうしろって言うんだと一人愚痴を吐いているイルカ先生にくっつきながら、気付き始めた気持ちは解けない問題が漸くわかったみたく嬉しい。
今どうこうしたい訳ではない。でも、もう自覚したものを無しにするのは無理だと思った。
大きなため息を吐くイルカ先生の肩に頭を乗せ上を見上げると、先程まで雲で隠れていた月が見えてきた。雲が晴れると月はまるい綺麗な満月だった。それを彼の肩越しに見るとは自分でも想像しなかったが、何故かいつも見ている月より綺麗に見えた。
END
※カカシ気が付きました。
どうも、ラブラブになるまで書けないなぁ…次はもう少し先を…
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