luna
愛し子
「……はぁ」
山積みになった書類を何とか一通りチェックし終えた。一番上は確認や決定すべき事柄が多くて困る。実働のほうが性に合っていると言うのに。
片付けた書類の山の上に走り書きしたメモを載せ、執務室を後にする。少しでも空いた時間は彼女に付いていたかった。
返事がないのを承知でノックしドアを開ける。部屋の光景は朝と変わっていない。ただ一つ、安らかだった寝息が苦しげなものに変わっていた。
「ううっ……ぁ、く」
何かを拒否するように首を弱々しく振り、目尻からは涙があふれていた。また悪夢を見ているのか。
流れる雫を拭って手のひらをオレのそれで包み込む。彼女には逆効果かもしれないが、ひとの温もりが少しでも伝わればいい。
あやすようにもう片方の手で髪を撫で梳けばいつしか元の落ち着いた寝息に戻っていた。やはり彼女の負った傷は浅くないらしい。この分では目が覚めても苦しむことになるだろう。
僅かながらでも支えになれればいい。
「せめて眠りくらいは、安らかであるように」
少しでも長くそばにいて、うなされたなら宥めよう。これは贖罪にも近いけれど、たぶんそれだけではない。
「オレはおまえを守ることに、救いを見出だしたんだ」
幼い自分とどこか同調する少女を救うことで、自分にも救いをと。ただのエゴだ。けれど譲れない。オレだって救われたいのだ。
彼女はまだ目覚めない。診せた医者の話ではそろそろ起きてもおかしくないらしいが、トラウマが阻害しているのかもしれない。
眠りはきっと心地いいだろう。何も害するもののいない平穏な世界だ。
それでもいつかはきっと目覚める。
「おまえの平穏はオレが守ろう」
もう一度髪を撫でて微笑みかける。本当は抱きしめてやりたいけれど、それは起こしてしまう可能性があるからできなかった。
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