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luna
御名において、祈りましょう
 規定を大幅に上回るスピードでフィアットを飛ばして帰途に着いた。その甲斐あって行きより大分短い時間でアジトに到着した。すぐに使用人に彼女を預ける。

「この娘を頼む。ディスフィオラーレに捕まっていたんだ」
「かしこまりました」

 細い体を恭しく抱き上げたメイドは屋敷の奥へ消えていった。バスルームのある方だ。
 その様子を見届けてからオレも私室へ戻る。さっきまでは気にしていなかったが、よく見れば服に返り血がこびり付いていた。

 普段はマントで覆っているからこういう事態はなかなかない。洗濯しても染みになるだろうし、また一着新調するしかないだろう。溜め息を吐いて行儀悪く脱ぎ捨てる。

「昔は、服がこんな汚れたって、気にもしなかったのにな……」

 仲間が増え、部下が増え、使用人が増え、組織は大きくなっていく。それに伴い体面も責任もまた大きくなる。若くして就いたボスの座は予想外に高くなってしまった。

 手の中に収まるだけの大切なひとたちを守れたなら、それだけで良かった。特異な力を持っていたオレたちを誰も守ってくれなかったから、悔しくて悲しくて、同じような者が出ないように作った組織だ。そんなひとたちのためになれたなら、と。

 けれど想いに反するように自警団はマフィアになり、追い払うだけだった戦いは殺し合いになり、本当に守りたかったひとたちは指の隙間からこぼれていく。

 ――そう、まるで彼女のように。

 炎を出せる人間はオレの知るかぎり自分を含め彼女で三人目だ。真っ先に守るべき対象のはずだった。戦うための力じゃない彼女は特に。でも守れなかった。

(自責、しているのか……らしくもない)

 皆が言った。オレは大空、すべてに染まりすべてを包み込み包容する。そのように行動してきたし実際包容できていたと評価された。
 けれど、一体誰が大空を支えてくれるだろう。オレは誰に頼ればいいだろう。相棒は大空と呼んだ本人だし、一種崇拝に近いものがある。

 弱音を吐きたくても、簡単にできないことばかりだ。

 オレの心は新月の夜のように闇に包まれ、暗く堕ちていく。あの少女が自分に見えた。迫害され、助けてほしいとGとコザァートに隠れ泣いたあの頃。比べものにならないくらい強くなった今でさえ救えない。

(もし、彼女が救えたなら、オレも救われるだろうか)

 聖女の力で、オレを救ってくれるだろうか。
 最初から神なんて信じていない。無償の愛なんか綺麗事で信仰への容赦なんか欺瞞だ。それなら実在の人物を信じた方が余程いい。

 小さくか弱い少女にこんな期待をかけるのは間違っている。わかっている。けれどオレも何かに縋らねば生きていけない。

 少年から聞いた彼女の名を心の中でそっと呼んだ。

(どうか君もオレも救われるように。アーメン)





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あきゅろす。
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