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luna
朝ぼらけ
 アメティスタが教会で暮らしだしてから一年が経った。そこにはオレの従弟もいる。今年で九歳になるのだったか、燃えるような赤い瞳をした、あまりオレに似ていない少年。前に会いに行ったときにはすっかり彼女に懐いていた。

(あの子は警戒心が強かったのにな)

 オレにまつわる人間なら敵対心も相まって殊更に大変だったはずだ。事実、最初の頃はナックルからいつも彼女と喧嘩していると聞いていた。それがだんだん軟化して今に至るらしい。
 子供と仲良くやりたいと頑張ったのだろう。元々太陽の聖女と呼ばれ老若男女を問わず人気があったのだ、子供に好かれるのもわかる。

 会ったのはもう二月前になるか。ナックルと話し情報は得ているもののやはりいくばくかの空虚さは拭えない。

「また、会いに行こうか……」

 Gたちの作ってくれた口実は思っていたより役に立っていた。アメティスタの身を守るためグローブを鍛えに行くのだと言い聞かせれば、危険を及ぼすことを恐れて渋る足を存外楽に進められる。そして心からの笑顔で迎えてくれる彼女にオレも笑い返せるのだ。

 会えて嬉しい。寂しかった。ずっと変わらず愛しているよと。
 そう、笑みに込められた甘やかな想いを交わし合う。
 身体的な距離は遠くとも、心はいつも通じているのだと、感じられる。

――「まるで妻問い婚のようでござるな」

 いつだったか雨月に揶揄された言葉だ。どういう意味かと問えば夫が妻を訪ねる婚姻形式だと言われた。

「『明けぬれば暮るるものとは知りながら なほうらめしき朝ぼらけかな』。昔の有名な和歌で、離れたくないと歌ったものでござるよ」
「それがどうした」
「今のプリーモにぴったりでござる」

 クスクス笑う雨月にオレは少しばかり拗ねた表情を見せた。

 しかし、異国の歌はオレの中に今も色濃く残っている。日本は好きだ。独特の文化が美しい。

「あけぬれば、くるるものとはしりながら、なおうらめしきあさぼらけかな」

 夜が明ければ、また暮れることはわかっているが、しかし夜明けはやはり恨めしい。作った人間は妻と夜しか共にいられなかったらしい。確かにオレの状況によく似ている。

 月に会えるのは夜だけなのだから。

 Gに渡されたスケジュールを確認する。次にアメティスタに会いに行けるのはいつだろうか。足繁く通うのは無理だけれど、まったく会わないのも堪えられない。

 愛しているから。
 浄化されたいから。
 彼女の笑みに救われるから。

 淀んだ心を洗い流す。闇に沈んだ自身を照らしだす。怜悧な光がオレを包み、朝の明るさへ送り出してくれる。
 近ごろ抗争続きの荒んだ心を癒してほしかった。





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