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luna
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 その日は朝から本部中がざわざわと浮き足立っていた。今まで慕われていた『ルナ』の出立の日だから仕方ないのかもしれないが、しかし周りにばれてしまいそうな言動は慎んでほしいものだ。
 そんなことを考えながらアメティスタの部屋のドアをノックして返事を待つ。

「どうぞ」
「ルナ、支度は出来たか」
「ええ。今終わったところです。荷物の整理をしたら、全部あなたからもらったものばかりでした」
「それは光栄だ。まだプレゼントがあるんだが……受け取ってくれるだろう?」

 ぱちくりと瞬いてから嬉しそうにはい、と答えた彼女の手を引いて部屋を出た。Gにはもう言付けてある。こっそりと本部を抜け出して、向かうは行きつけのあの店だ。

「タルボ!」
「おお、プリーモじゃないか。そちらが例の?」
「ああ。頼んでいたものは出来ているか?」
「もちろん」

 タルボがオレたちの前に包みを二つ置いた。その内一つを手に取ってアメティスタに差し出す。

「開けてごらん」
「プリーモ、これ……!」
「仲間の証だ。ずっと渡そうと思っていたんだが、遅くなってしまった。済まない」

 彼女はふるふると首を振り、懐中時計をぎゅうっと抱きしめる。オレたちと揃いのそれは大切な仲間だと言う証明。羨ましそうに、眩しそうに、時計を見つめていたのは知っていた。
 オレがプリーモとして出来る贈り物の中で、きっと最高のものだろう。

「あと一つあるんだ。これをルナの炎で焼いてくれないか。――オレと共に生きると、覚悟してくれるなら」

 がさ、ともう一つの包みを開けて色とりどりに輝く破片を手渡した。アメティスタは何も言わず、迷うこともなく、強い覚悟を両手に纏わせる。
 揺らめき、交ざり合い、それでもクリアな真珠色の炎が虹色の欠片――トゥリニセッテの原石を加工したときに出た屑を包み込んだ。

 細かな石が炎に融けて一つの宝石を形づくる。そのままゆらゆら形を変えながらきらめくリングが完成していった。

「素晴らしい……あの欠片がなぜ生まれたか不思議だったが、彼女のためか……」
「貝も海も虹も、大空さえもその光で包み込む月だよ。ルナ、それを貸してくれ」

 手のひらの上に載った指輪に戸惑ったような素振りを見せる彼女に声をかけてリングを手に取る。
 オレのボンゴレリングによく似ている。そして彼女の特性を表した遊色効果が美しいリングだ。

 恭しく左手を取って薬指にリングを嵌めた。

「アメティスタ……愛してる」
「ジオ、」

 彼女の瞳からはらはらと涙が溢れる。指輪の意味を確かに感じてくれたらしい。誓いを込めたエンゲージリング。炎を強化する意図もある、特別な指輪だ。
 涙をそっと拭った。気持ちが伝わったならそれでいい。

「これはおまえだけに扱える指輪だ。ルナリングと呼ぼうか。オレのボンゴレリングと対になる」
「私がこれをもらっていいの?」
「アメティスタ以外は、嫌だ」

 離れてしまうことで生まれる不安も不満もすべて吹き飛ばす、誓いの指輪。薬指に燦然と輝くそれがきっとどんなときも二人を繋いでくれる。

「タルボ、ありがとう。また何かあったら頼む」
「お幸せにな、プリーモ」
「ああ」
「ありがとうございました!」

 タルボに見送られながら、オレたちはしっかりと手を繋いで店を後にした。





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あきゅろす。
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