luna
懊悩
「プリーモ、こちらの書類で本日は終わりです」
「わかった」
あれから一年、秘書を務めてもらっているが、アメティスタはなかなかに有能だった。読み書きも完璧に出来るし判断力も高い。こと医療系においては彼女の右に出るものはいないほどだ。炎だけで評価されていたわけではないらしい。
しかし、いつまでもオレの秘書にしておくわけにはいかない。そうするには勿体なさすぎる人材だ。だからと言って戦闘員に回すのもダメだ。諜報部だって戦闘もするのだし、いくら考えてもいい部署が見当たらない。
医療班を編成するのも考えたが、それは彼女の負担が大きくなりやすいし、何よりそこまでの人員が割けない。
彼女をボンゴレに入れると決めたはいいが、どこに回すべきか。それがオレの近ごろの悩みの種だった。
定例会議の後、ため息を吐いたオレにGが話し掛けてきた。
「ルナの配属先、まだ悩んでやがんのか。ここ二〜三ヶ月考えてたよな?」
「特別気を遣うさ。彼女は元々荒事が得意でないのだから」
「もうてめえの秘書に置いとけよ」
「……それは、出来ないんだよ」
確かに望ましい。近くにいられるし仕事の能率も上がるし守りやすいし。けれど、危険にもさらされやすいのだ。
「オレは、ルナが力を付けたからといって、危険な目に遭わせたくない。少しでもそんな可能性を低くしたいんだ、オレの秘書は何より向いていない」
「だが、あいつだって自分の身くらい守れるようになったぜ」
「いくら強くなったって、生命や身体を脅かされる恐れがなくたって、彼女が心を曇らせる可能性があるのなら、出来る限り阻止してみせる。おまえは過保護だと言うだろうがな」
アメティスタは強くなった。G指南の銃とアーチェリーも百発百中に近く、アラウディ直伝の捕縛術は大体マスターして後は慣れるだけ、ナックルの体力作りにも何とかついていけているし雨月との修業もそれなりの成果を出している。回避法も霧の炎の使い方も上手くなった。
どれもこれもオレのために死に物狂いで努力した結果だと、わかっている。
それでも、もう、あんな目は見たくないしあんな悲鳴は聞きたくない。だからこそ過保護になってしまうのだ。
「まあ、ジオが過保護になる理由もわからなくはねぇが……そんなんで手放して大丈夫なのか」
「オレは彼女を救い、そして救われたんだ。大丈夫とは言わないが、堪えられないことはない」
最初にアメティスタは待つと言ってくれた。プリーモであるオレを認め、有りのままジョットでいられるようになるまで待つと。それで離れてもどうにかなると、直感していた。
彼女にも異動先が決まれば今のようには会えなくなると伝えて了解をもらっている。
「それでも、彼女にはオレに何かあった時にすぐ駆け付けられるような位置にしてくれと頼まれたがな」
「それこそ難しいんじゃねーのか、おまえと希望が正反対だろ」
「だから、悩んでいるんだ」
出来るだけ彼女の意向に沿いたい。だがそうすればオレが望まない結果になってしまう恐れも出てくる。
まだまだ悩みは解決しそうになかった。
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