luna
闇夜を照らす月明かり
唐突だが、オレを含むボンゴレ幹部、守護者の面々はかなりの実力を持っている。事務能力もだが戦闘面においてもだ。新興勢力が伸し上がるにはとにか腕っぷしの強さが必要だったから。
いくら人数差が大きかろうと普通ならばすぐに制圧できるはずだった。そう、普通ならば。
しかし相手が悪かった。数の利を最大限に生かし致命傷を受ける前に入れ代わり立ち代わり絶えず攻撃を仕掛けてくる。
その上こちらが守りだというのも大きく関係している。大量の水をせき止めるには相応の堤防が必要なのだ。
一人一人の強さで何とか保ってはいるが、何か一つ、均衡を崩すような出来事があれば一気にこちらが不利になる。
「さあドン・ボンゴレ、囲われの聖女を渡してもらおうか。そこの緑の男に庇われている娘だろう? おまえら! 何としても奪え!」
「……させるかっ!」
にたり、と嫌な笑みを浮かべて指示を怒鳴った男に飛び掛かり、その勢いでアメティスタから遠ざけるために蹴り飛ばす。ランポウがきっちり彼女を守っているのをチェックして右拳を握り締めた。
「もう、手加減は止めだ……オレの仲間を傷つけ、彼女に手を出したことを、後悔しろ!」
手のひらの傷は絶え間なく痛みを伝え、ともすれば集中が途切れそうになるけれども、覚悟は増した。オレの何に代えても、アメティスタは守ってみせる。
狙う方向にこちらの仲間はいないことを確認して手近な一人を打ち抜いた。グローブはいつの間にかガントレットに変わっている。全身の炎を集めた一撃は易々と相手の体を吹っ飛ばし、周囲も多数巻き込んで転げていく。
同様に別の方向も殴り飛ばして掃除する。彼女を精神的にも肉体的にも、傷つけるものには容赦しない。オレを中心にぽっかりと穴の開いた布陣には先程の整然さは見る影もない。
オレに蹴られて嘔吐しながら咳き込んでいた男は、驚愕に目を見開き、しかし不敵に笑ってみせた。
「この、程度で、終わると思わないことだな。聖女が手に入らないなら、処分する手筈なんだよ……」
ぱちりと鳴った指、人波に押し流されてランポウの陰から出てしまったアメティスタ、そしてキリキリと引き絞られた弓。
一瞬で視界に収めたそれらはコマ送りのように脳裏に閃き、次の瞬間には反射的に体が動いていた。
「プリーモッ!」
叫んだのは一体、誰だったか。
Gかランポウか雨月か、デイモンかアラウディか。
それともオレ以外の全員か。
切迫した響きの声がオレに届く頃には、オレの胸に深々と矢が突き刺さっていた。
「無事か、アメティスタ」
「ジオ……?」
「傷がないなら、良いんだ」
ごぽり。口から血があふれ出た。どうやら気管もやられたらしい。ああ、せっかくの白い服をオレの血で汚してしまう。彼女によく似合っていたのに。
「ジオ、ジオ、血が、ひどいわ、いなくならないで、嫌、」
「ごめんな……アメティスタ……」
震えた声音、吐息、身体。慰めたくても体がもう上手く動かせない。意識は闇に落ちていく。霞む視界の中、揺らめく真珠色が見えた。
闇を照らすその様はまるで、
「ルナ…………」
呟いてから意識を飛ばすまでの一刹那、優しい温もりがオレを包み、救われた気がした。
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