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luna
剥がされた痂
 彼女が中座したとき、アラウディがこちらに話し掛けてきた。ひとと必要以上に関わることを厭う彼がこう話すのは珍しい。

「ねえジョット、彼女をボンゴレに取り込むつもり?」
「本人の意志次第だ。プリーモとしてなら、まだ解放してやれるからな」

 滅多に他人に興味を示さない雲は、珍しく柔らかい笑みを見せた。今日一日の会話の中で彼女の本質を感じたらしい。

「ふーん……そう。あの子、自分の立場に甘えてないから気に入ったんだけどね」
「そうか」

 アメティスタとまわりが仲良くなるのはいい。世界が広がるのは喜ばしいことだから。アメティスタをまわりが大切にするのもいい。気に入ったのなら当然のことだから。
 けれど、それで彼女がオレ以外の誰かを選ぶのは、何だか嫌だった。

 視線をアラウディから書類に戻す。しかしうまく集中できない。彼が揶揄するように一枚も進んでないよ、と言った。オレはただ苦笑を返した。

 こんなに強い独占欲を、オレは未だ知らない。慈悲も愛もすべて平等に注いできたのだ。手に入れた花を大切に育てて欲しがるならば譲る、それが常道だったというのに。
 手の内で大事に愛でた宝石を見せびらかして、自慢して、他には譲れないなんて、初めてのことだ。

「彼女は、どれだけ癒えたのかな」
「どうだろうな。まだ傷は深いようだが」
「甘やかしてばかりもいられないな。試してみてもいい? まあ、試すんだけどさ」

 言うが早いかアラウディがカップを投げ付けてきた。それなりのスピードで飛んでくる物体に反射的に体が動き叩き落としてしまう。
 カップは空中で砕け、オレの手に爪痕を残し絨毯の上に散らばった。

「……いきなり、何を、」
「ジオ!」

 はっと振り向いた先には蒼白な顔をしたアメティスタが立っていて、だらだら血を流すオレの手のひらを凝視していた。これはあの時と――彼女を捨て身で止めた時と、そっくりだ。
 アラウディはこれを狙っていたのかと今になって気付く。うまく乗せられたことを恨んでももう遅い。

「いや、ジオ、血が、いや……」

 彼女は慌ただしく駆け寄りオレにしがみついて怪我の具合を確かめた。傷口に手を添え、炎を出そうと震える身に力を込める。
 けれど、美しく魅せる白い炎は、不安定に一瞬ゆらりと揺れただけだった。

「何で、どうして、ジオが、いや、いや、いやああああっ」
「落ち着け! オレは大丈夫だから」

 癒せないことでパニックを起こす彼女を急いで抱きしめた。ひっ、ひっ、と過呼吸気味になっているのを押さえるため口を塞ぐ。

「ゆっくりだ……ゆっくり呼吸しろ、アメティスタ。オレは大丈夫だ、おまえを守る」
「ジオ……」

 アメティスタは言う通りに覆った手の中でゆっくり呼吸する。ぼろぼろと涙がこぼれ落ち、だんだん落ち着いてきた。

「ごめんなさい、ありがとう、ジオ。手当てだけでもさせて」
「ああ。心配させて済まないな」

 懐からメイドなもらったらしい救急セットを取り出した彼女は、ちぎった脱脂綿に消毒液を染ませている。オレの右手をとって血をそれで拭っていく。慣れた手つきをしたアメティスタをちらりと一瞥してからアラウディを見た。

 無茶させるなと険しい視線を送れば彼は軽く肩をすくめてみせる。やれやれとでも言いたげな様子にびきりと青筋が浮かんだのがわかった。いくらなんでも腹が立つ。

 とりあえず気を取り直して手当てを終えて心配そうにこちらを見る彼女に微笑みかけて礼を言った。





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あきゅろす。
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