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luna
存在意義
 眠りに就いたアメティスタを見守ることしばし、その寝息が安定しているのを確認して部屋を出る。彼は執務室のドアの前に立っていた。

「G」
「ジオ、アイツは?」
「……寝かせてきた。入れ、茶でも飲もう」

 情熱的なひとね、彼女がそう評した赤毛の相棒はオレについて部屋に入ってきた。おそらく、いや確実にアメティスタについての話だろう。
 ざっと用意したエスプレッソを渡し、オレもまたカップを片手に向かいへ座る。

「で、どうした? G」
「…………てめえは、アイツを手放す気はあんのか」
「プリーモとしてなら、ある。だが、ジョットとしてなら――ない」

 偽りない本心を吐き出して、ほろ苦いコーヒーを口に含んだ。Gは溜め息をついて真っすぐにこちらを見る。呆れたような視線は慣れたものだ。突拍子もないことをしてはそんなふうに見られていた。

「まあ、わかっちゃいたけどな。話して気付いた、アイツはてめえによく似てる」
「やはり、そう思うか?」
「ああ。不安定だった頃のジオも、あんな感じだった。だから惹かれんのもわかるし支えてーのもわかるさ。守護者を彼女につかせたのも、慣れさせるためでもあるんだろうが、見極めさせて納得させるためだろ?」

 お見通しか。オレが無言で頷いたのを見て、Gが続ける。

「ただ、一つだけ違うのは、ジオにはこの街って芯があったが、アイツにはないことだ。……今日、アイツと雨月が怪我したの知ってるか?」
「話には聞いたが」
「カップを落として、その破片で結構深く切れたんだが、自分の傷を治すどころか触ろうともしなかった。雨月の手当てはすぐにしたくせにな」
「炎は使ったのか?」
「使おうとしてたんだが、上手く出なかったみたいで包帯だけだった。アイツはオレがしといた」
「そうか……」

 綺麗に手当てされた彼女の指先を思い出す。怒鳴り付けまではしないものの彼女を怒って丁寧にしてやったんだろう。
 自分や他人を治療できないのは、きっとまだ根強いトラウマがあるせいだ。

 汚いと泣いた、アメティスタの姿を思い出す。

「…………彼女が、オレに依存したのは、刷り込みみたいなものなんだ」
「あ?」
「あまりにも自分が汚いんだと嘆くから、つい炎で燃やしたというか……包んでしまってな。そして名前を付けてほしいとせがまれて付けたりもした。それがあったから、オレには弱みを見せるんだ」

 滅多に表情を崩さない相棒が思い切り顔を引きつらせ、まるで有り得ないというかのようにまじまじとこちらを見つめた。

「あのなぁ……確かに包み込めとは言ったが、炎でやれとは言ってねえぞ。しかも名前までつけて。人生背負う気か」
「だから、手放せないんだよ。それに仕方ないだろ、水差しの破片を握り締めて死のうとしてたんだ。オレにはあの時、絶望から救えるのはそれしか思いつかなかった。オレのためなら治癒できるのがわかったから良かったが」
「って、まさかテメェ」

 ぐいっと手を取られて眺められる。傷痕は残っていないがまだ生々しい痛みは覚えている。

「オレの手で彼女の自殺を止めたんだ」
「……それでアイツが治さなかったらどうする気だったんだよ」
「ナックルに頼んだだろうな。そう深くもなかったし」
「ジオはいつもそうだ。自分の身と誰かを天秤にかけたら誰かを取りやがる。もうすんなよ、アイツの生きる意味は、唯一おまえなんだ」
「わかってる、さ」

 その言葉は、何より重かった。





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