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luna
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 部屋の中は静寂に満ちていて、紙をめくる音やカリカリとペン先が紙を引っ掻く音なんかがやけに響いていた。オレが立てる雑音の他は何も聞こえない。

 アメティスタは、今、ランポウとナックルと雨月に守らせている。

 顔合わせからまだ一日しか経っていないというのに、彼女の負担にならないか心配だ。当の本人はと言えば、やわらかい笑顔で渋るオレを送りだしてくれたけれども。

 近くのマフィアとの小競り合いなんて日常茶飯事、いちいち報告しないで構わないといつも思うのだが、何か問題があると困るため、きっちり報告が上層部――つまりオレに回ってくる。
 だいたいの書類がそんな雑事だ。チェックとサインのルーティンワーク。毎日それなりに溜まるこれは、オレが片付けないと減ることはない。

 彼女は心配だが仕事も手を抜くわけにはいかない。出来るだけ早く終わらせて彼女のもとへ向かおう。
 十センチほどの山を見つめて、はあ、と溜め息を吐いた。まだまだ終わりは遠いらしい。



「雨月さん、お代わりお注ぎしましょうか?」
「ああ、ありがとう。君は紅茶を淹れるのが上手でござるな」
「ありがとうございます」

 何とか仕事を片付けて駆け付けた部屋の中で、アメティスタたちは和やかなティータイムを過ごしていた。

「おお、ジョットではないか」
「ジオ!」

 オレの姿を確認してすぐに彼女が駆け寄ってくる。ふわりと和らいだ顔は少なからず緊張していたことを表していて、思わずハグしてしまった。
 反射的に強ばった体は、それでもすぐに力が抜けてこちらに身を任せてくる。

「疲れたか?」
「…………少しだけ。でもみんな素敵なひとね」
「オレの自慢の仲間だ。そう言ってくれると嬉しいな」

 軽く頭を撫でて腕を外し、守ってくれていた三人に微笑みかけてソファに座った。
 アメティスタはポットとカップを取り上げて準備している。

「ジオにも淹れるわ」
「ああ、頼む」

 ランポウはポリポリクッキーを頬張っていて、雨月はほのぼの紅茶を啜り、ナックルは不器用ながら彼女を手伝っていた。
 差し出された紅茶は濃い琥珀色をしていた。ふわりと広がる風味、そして甘みと渋みを楽しむ。

「ジョット、とりあえず異常はなかったでござる」
「それなら良かった。かなり打ち解けたようだな」
「俺様が仲良くしてやったものね!」
「ちゃんと節度さえ守れば大丈夫のようだったからな、ゆっくり話をしていたんだ」

 昨日よりはいくらか硬さの抜けた笑顔で頷く彼女を横目に、やはりこの三人を護衛に選んで良かったと思った。Gは良い奴だがとっつきにくいし、デイモンは胡散臭いし、アラウディは群れるのを嫌うから。

「明日はそうだな……雨月とGとデイモンに頼もうか」
「わかったでござる」
「ずっと付いていてやれないのが心苦しいが、何かあればいつでも執務室においで。歓迎しよう」

 彼女はオレをまじまじと見つめて、それから嬉しそうに頷いたのだった。

「ありがとう、ジオ」





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