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luna
マグダラのマリア
 夜闇の静寂を切り裂いて、鮮やかなオレンジ色の炎が舞った。前回やり合った時に大きなダメージを与えたはずのそこは今だ変わらない戦力を持っている。

「G、どう思う。オレはあいつらに見覚えがあるんだが」
「オレもある。やっぱり、あのガキの姉が無理やり治させられてんだろーな」
「……許せん」

 両親を目の前で殺した相手を癒す、それはどれほどの苦痛だろうか。弟の命がかかっているのかもしれないし、彼女自身の命かもしれない。何にしろ卑劣な行為だ。

「大事な市民に手を出したこと、必ず後悔させてやる」

 ボンゴレ総出でディスフィオラーレを殲滅する。オレの決定に反対意見は出なかった。

「アラウディとオレがアジトに潜入する。他の皆はあいつらを処分しろ」
「了解」

 無駄に装飾された屋敷はあまり美しいものではなかった。内部の相手を一人一人沈めながら廊下を駆ける。地図上ではこの近くにボスの部屋があるはずだ。感覚を研ぎ澄ませたその時。
 下卑た声と悲鳴が、聞こえた。

 音源は間近の扉の向こうだ。迷わず蹴り開けて、見えた光景に絶句した。

 虚ろな表情で涙をこぼしながら手のひらに炎を灯す全裸の少女と、その体に抱きつくようにして群がる男たち。炎が触れた部分から傷が治っていく。
 ほとんど反射的に男たちから彼女を引き離した。

「……っアラウディ! そいつらを頼む!」

 グローブに灯した炎で手枷を壊す。倒れこんだ少女を抱き抱え、マントを外し掛けてやった。まだ十代だろう彼女が受けただろうダメージは想像していたよりひどかった。暗い瞳がこちらを見上げてゆるりと笑う。

「神さまは、本当にいたのね。迎えに来てくれた……。ねえ、早く、私を殺して」

 何も言えないうちに彼女は意識を飛ばした。他の奴らを片付け終えたアラウディが近づいてくる。

「彼女、大丈夫なの」
「怪我は大したことはない。ただ、精神が」
「まあ耐えきれないだろうね。両親を殺されて、暴力をふるわれて、凌辱されて。特別綺麗に育ったみたいだし」

 華奢な体を見下ろした。青白い肌の大部分はマントで隠されてはいたが、痛々しい痣がちらちらと覗いている。白くこびりついた汚れも見える。弟の話からすると、一週間と少し、この娘は暴行に耐えてきたのだろう。
 殺してほしいと願う声が耳から離れない。懇願とも言うべき響き。弟の命を守るためだけに親の仇を治療し、いっそ死にたいだろうに自殺も他殺も望めないままで。

「ジョット、何泣いてるの? 甘いね、君は」
「……」

 アラウディに溜め息を吐かれても涙は止まらなかった。女も子供も必要なら迷わずに殺してきた。それなりの冷酷さは身につけたつもりだ。なのに名も知らない少女の不幸を嘆いている。なんて矛盾だろう。

 波打つ感情はとどまることを知らない。

「ディスフィオラーレの、ボスを殺しに行くぞ」
「うん」

 オレはほとばしる激情のままに駆け出した。





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