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luna
尽きせぬ祈りを
 やってきたGから手渡された書類に目を通しながら彼女を待つ。
 まだ暗い表情しか見たことのない彼女の、本当の笑みが見てみたい。そのためには傷も痛みもすべて包み込むことが必要だろう。せっかくの名、大空をここで生かさねば。

 ただ、彼女のひとつひとつが幼いオレによく似ているから、やりにくくはあるけれど。

(自分が救われてこそ、ひとを救えると言うのに)

 結局やはりオレはまだ、完全に誰かを救うことができるほど強くないのだ。はあ、と溜め息をついた、そのとき。

「あの、」
「ん、食べおわったか。風呂に行くか?」
「……ええ」

 食事で少し生気を取り戻した彼女は美しさが増していた。取り巻く絶望も色を薄めた気がする。良いことだ。
 すぐにメイドに言い付けて浴場に連れていかせた。さすがにそこまでついていくわけにはいかないので執務室待機だ。終わったらまた連れてくるよう言ってある。

 そうしたら寝室までエスコートしてやろう。できるかぎりの愛で包み込んで、すべてを受け入れよう。近頃特に不安定なこの心も、そうすればきっと落ち着くだろう。
 彼女にやさしくすることでしか自分を保てないだなんて、情けない話だ。あの無垢な少女を利用している気分になる。いや確かに利用はしているが、けれど、救いたいのも本当で、贖罪も本当なのだ。

 揺れる思いに蓋をして、やってきた風呂上がりの彼女にまた微笑みかけた。

「また綺麗になった」
「え、……」

 困惑する彼女を連れて部屋を出て寝室へ向かう。片手にはきちんと書類も持った。ふらつきが多少治まっている彼女は素直に引かれるまま歩く。繋いだ手は温かい。血が通っている証拠だ。

「寝なさい。まだ体力は戻っていないだろう? 一回休んで、また元気な顔を見せてくれ」
「……あなたは、どうして私にこんなによくしてくれるの?」
「大切だからだよ」

 ベッドに腰掛けて彼女の額に軽いキスをする。びくりと体を強ばらせはしたが、拒否されなかったことを密かに喜びながらあやすように撫でる。

「おやすみ。いい夢を」

 安らかな眠りを祈って素直に閉じられた瞼を見守った。
 彼女が再び目覚めたときに、この絶望が消えているよう、どうか。どうか幸せな夢を見てほしい。世界はいとおしく、彼女は美しく、生きることは素晴らしいのだと、信じてほしい。

 できることならばオレがその一助になれるようにと、祈り続けた。





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