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あやまるマッチ売り

「っ、ごめんなさい…!」

弾かれるようにライターを引っ込められて、アポロは自分がほんの、ほんの少しばかり眉を顰めていたことに気付き、慌てて腕を伸ばした。
ライターを持つ手。黒い手首をなんとか捕えたは良いものの、後にするべき行動が見当たらない。触れた瞬間、パンサーはびくりと体を震わせた。ほとんど怯えたような表情で一度だけ反射的に抵抗を試みる。しかしすぐに力を緩め、もう一度消え入りそうな声で呟いた。
「ごめんなさい…」


アポロが胸やら尻やら腰を掌でぽんぽんやっているのを見て、ライターを探しているのだと気付くのにそう時間はかからなかった。葉巻も口にスタンバイしている。
パンサーは先程アポロが銀色のライターを机の上に置いたのを見ていたので、それを手にとって差し出したのは何の考えもないただの純粋な好意だった。ご丁寧に火を点け手を沿えるまで行ったのも、無意識、と言って良い。

アポロが眉を顰めたのも無意識だった。
商売女のようだとか、二人の関係がそのようなものに堕ちる危惧、どこでそんな振る舞いを覚えさせられたのだ、など具体的に考えたわけではなかった。ただそういったほんの僅か、諸々の感情(一言でいえば"汚らわしい")が、表情に作用した。



パンサーは嗅ぎとった。瞬時に。
繊細でも敏感でもないが感覚は鋭い。
葉巻に火もつかないうちに手を引っ込める。アポロの気分を害したことをひどく後悔し、自分の行動を省みて恥じた。
駄目だ、やり過ぎた。

卑しかった。




手首を掴まれたまま、じくじくと心から、苦い何かが染み出てくる。
「…アポロ、さ」
恐る恐る名前を口に出すと、ゆるりと手首が解放された。そしてすぐに、両腕で拘束された。

「あの、」
どくん、どくん。胸はさっきからずっとうるさく鼓動を打っていたが、異なる響きを持ち出した。肩に乗せられた頭がいやに重たい。
「すまない」
パンサーは目を見開く。
アポロは腕にぎゅうと力を籠めた。パンサーの立派な体躯が、今日はやけに華奢に感じる。
「すまない」
もう一度言われてパンサーはやっと、ああこの人は俺を慰めてくれようとしているんだと理解した。体温が、流れ込む。
「…大丈夫です」
小さな声でしか言えなかった。アポロの顔の凹凸を、肩で感じる。


嬉しさと悲しさで押し潰されそうだった。







END
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パンサは基本強い、相当強い子だと思うけどだからこそたまに弱いとちょう萌える。







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