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或る病の日のはなし

案外自覚ってないもんで、なんとなくだりぃなと最近思ってはいたものの流されるように部活。アドレナリン出してそのまま夜を越えてまた朝。
少し咳が出る。一番始めに指摘したのがパンサーだったのが意外だった。
「気を付けたほうがいいよ」
意外なほど真面目な顔で言う。声音が思いの外暗くて、なんだらしくねえなあと言うと苦がそうに口を結んだのち「そうだな」と口を緩めた。

変化があったのは数日後でなんだか視界がやけにぐらつく。息が止まって、凄い勢いで咳となって出た。ゼイゼイ言う。誰かが腕に触れた。黒い手。
「大丈夫っ!?」
ふらつく頭で認識した顔は、奇妙に青ざめていた。
「すぐに家に帰ったほうが良い」
低く、真剣な口調でパンサーが言う。(こういう時のコイツ、はっきり言って結構男前だ。俺だけがそう見えるのかもしれねぇが)



忠告通り一度家に帰り、病院に行き薬をもらった。錠剤とカプセル、粉末。症状緩和の為にとりあえず飲まされて、後は食後に飲むようにと医者に言われた。
家でベッドに入る。基本的にてんで出ずっぱりの家族なもんだから家は空だった。一応母親に連絡すると早々に帰ってきてくれるらしい。家族を待つうちに何人か様子を見に来た。部活の奴らとか、他にも。パンサーの姿は無くて、少し落胆した。
「パンサーね、バイト終わったら行くってゆってたよ」
ワットが言う。バイトが終わったら、って何時だよ。寝ちまうぞバーカ。鈍った頭で悪態をついて、目を瞑ったら本当に寝てしまった。





気付くと夜だった。
闇にほとんど溶け込んだ何かが、慌てたように目を見開いてそれから
「ごめん、起こした」


「……ずっと居たのかよ?」
「や、今来たばっか。…苦しい?」
「別にそんなんでも。頭重てえけど」
パンサーの手が伸びて、額に触れた。優しさなのか、怯えなのかわからないくらいゆっくりと。
「…凄い熱だ」
「これから上がるってよ。んで綺麗に下がったらおしまい」
「………そう」
静かに呟いて、ベッドの傍らに座る。なんでか調子狂う。暗くて良くわからないが、酷く苦しそうな顔をしているように思えた。
「なんかする?なんか食べた?」
「あ、食ってねぇ」
「林檎剥こうか?」
頷くと立ち上がって、ナイフと林檎をとって来た。いつも通りするすると剥きやがる。それなのに。
なんか、不穏だ。変だ。パンサーの表情は終始強縮ばっていて、こいつこそ具合が悪いみたいだ。
「はい」
綺麗にカットされた林檎を、皿ごと渡される。楊枝で差して食べようとしたら、咳に、妨害された。


弾かれたように腰を浮かしたパンサーの、ほとんど泣きそうな顔を見逃さなかった。
大丈夫?大丈夫?食べれる?苦しくない?
咳が収まってから、平気だと言うと、力が抜けたように、すとん、と腰を下ろした。
「てめえ、なんかちょっとおかしいぞ今日」
がらがら声で指摘する。パンサーは目を丸くして身を縮めた。それから体の力を抜いて一度瞬きをする。
「え、あ、うん、そうだな。すま、ん」
「あやまるなよ」
下を見て口をつぐんだ。呼吸だけ聞こえる沈黙。林檎を口にした。



「婆ちゃんがさ、」
ぽつり、とパンサーが声を出す。
「肺炎になったことがあって」
しゃりしゃりと林檎を食べ続けた。
「咳とか、ちょっとその時に似てたから」
「びびったってか?」
「………うん」
ため息と同時に枕に頭を乗せた。
ああ、そりゃあ。そりゃあ、な。
「他に何か出来ることない?」
酷く頼りなさげな表情で、パンサーが問いた。
「そうだな、」
天井を見て考える。

「飲まして、薬」
「え?」
「口移しで」

いつになくスムーズに言えた。全然働いてねぇでやんの頭。だから割りと本気。本気でとって貰わなくていいけど。
そのくせ言ってから、あ、これは卑怯だったかもしれない、と思った。でも気にしなかった。どうせ笑えない冗談にしかならねえし。


パンサーは笑わなかった。うろたえもしなかった。ただ固い表情で俺の目を見た。
すがる様な目だった。
おもむろに立ち上がる。枕元に近付く。



黒い手がグラスを取る。水を。
パキパキ、錠剤をてのひらに。てのひらを口元に。口元を口元に。
やわらかであたたかな隙間から、


つめたい水と錠剤。

そして甘やかな唾液。





ゆっくりと顔を離したパンサーは、冗談を挟む隙もない表情だった。また、少し青い。
「は、」
笑い声にもならない、短い音を俺は阿呆みたいに発する。とりあえず心拍数は急上昇した。殺す気か。病人を。
「てめぇの方こそ大丈夫か」
「なんでもいいから早くよくなってよ」
絞り出すように言ったパンサーは、本当になきそうな顔をしていた。






END
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なげー、ね。いやこれくらいが普通か他じゃ。
風邪ひきホマとテンパるパンサ。ちなみにまだ出来とらんです。



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