必要資格 「傘ぐらい差せ馬鹿」 声をかけるとずぶ濡れの頭が上を見上げた。 「ずっとそこでそうやってたのか?」 少し黙ってからの返事。 「うん、ボール、どうしても一個足りなくてさ」 グランドの隅にうずくまっている影がパンサーだと気付いて、急いで駆け付けた。 雨により練習は中止。手慣れた様子で拾ったボールを倉庫に片付けたところを見たものだから、てっきり彼の仕事も終ったのだと思っていた。 もうそれから、30分以上経っている。 「多分この辺りだと思うんだけど…。草ボーボーでさ。今度草むしりしねーとなぁ」 屈み込んだまま、のんびりと言う。 胸の奥で、何かがくつくつ煮えている音がした。 「傘くらい差せよ。ぐしゃぐしゃじゃねーか、ほら」 持ってきた傘を差し出したが、パンサーの手は伸びなかった。 「いいって。もうどうせ濡れてんだし」 よかねーだろ別に。 なおもとる気配のなく、屈んで草を掻き分けている相手を見て、くつくつが少し大きくなる。 そもそも、何でこいつがそこまでボールに執心しなくてはいけないのか。 誰のためだ? 「まだ探すのか?」 こくり。 「ここのままでか?」 こくり。 胸の何かが煮え立つ。 「どうせこの雨じゃ、もう使い物になんねーだろうが。そんなにアイツに従いたいのかよ」 がさ。 手が止まった。再び茶色い顔が向けられる。 雫が幾筋も流れていく。返事を慎重に選んでいるようだった。 「…確かにそうかもしんねーけど」 小さめだがしっかりとした声。 「与えられた事ぐらいやらないと、俺、チームにいる意味なくなっちまう」 何かは溢れて、外へ流れ出た。 「…なんで傘閉じんだよ?」 パンサーの見開いた眼に、目線が合うようにしゃがむ。 「探してやる、一緒に」 「でも…風邪引くぞ」 「その台詞、そっくりてめーにくれてやらぁ」 「ホーマー、」 「んだよ」 「ありがとう」 パンサーだけをずぶ濡れにはしたくなかった。 ならば自分も濡れるしかあるまい。 それはきっと、 隣にいるための義務。 END ********************** おお、ここの駄文にしては結構長い。ホマのイライラ感が好きです。歯がゆくてたまらん感じ。パンサが好きで好きで、でもなんも出来なくて、それでも傍にいたいんだよ。ナァ? 萌え。 |