Novel 茨になることを望む薔薇(5D's/アキ遊) 綺麗な花には棘があると言うけれど、それは嘘だと思った。 「遊星、左の頬に少し汚れがついているわよ」 「…あぁ、さっきまでDホイールのメンテナンスをしていたからその時に付いたんだろう」 「待ってて、取ってあげるから」 そう言うとアキは自分の服のポケットから綺麗な刺繍が施されたハンカチを取り出し、自分の左手を遊星の右頬にそっと添えた。 そして、まるで硝子細工やアンティークといった壊れ物を扱うような手付きで遊星の頬に付いた汚れをハンカチで優しく拭き取る。 「はい、取れたわよ」 「あぁ、すまない」 「どういたしまして」 遊星の言葉にアキはそう笑顔で返して手を離そうしたが、不意に汚れが取れた頬に刻まれたマーカーが目に付いた。 罪人の印として刻まれる、決して消える事がない『傷跡』 改めて近くで『それ』を見るとアキは自分の胸にもやついて黒く『何か』が渦巻くのを感じた。 それは怒りだったり、悲しみだったり、見る面を変えれば様々な形になるため明確な姿は宿しているアキ本人すらも分からない。 するりと、マーカーが記された頬を撫でると遊星が「アキ?」と少し戸惑ったような声で名前を呼ぶがアキは何も答えずただ遊星を見る。 「本当に遊星は棘のない花なのね」 「花…?」 「そう凛と咲く、棘のない綺麗な花よ」 無表情に近い顔の上に少し困惑の色を浮かべる遊星にアキはぼんやりと考える。 地にしっかりと根を張って空へに真直ぐに向かって凛と咲く花。 内に入れた者いや余程の事が無ければ相手を傷付ける棘を纏わない綺麗な花。 それ故に人よりもずっと傷付いていて、それでも決して折れる事も枯れる事もない花。 そんな風に喩えられる彼の姿に惹かれたアキはふと棘を纏った彼を想像して嫌だなと眉を顰めた。 棘を持った彼。何かを守るために人を傷付ける覚悟を決めた彼。 きっと、瞳に宿っているのは深い悲しみと痛み。 そんな彼を見たくないと願いながらも、自分達を取り巻く世界は決して逃げる事を許さないし彼も自らの意志で棘を纏うのは目に見えるように分かった。 己を、仲間を、守るために。 「遊星、またライディングデュエルの相手をお願いして良い?」 「俺で良ければ別に構わないが…どうしたんだ急に?」 「特に理由は…ううん、あるけど遊星には秘密よ」 そう少し悪戯っぽい笑みを浮かべるアキに遊星は小首を傾げるが、そんな遊星にアキは更に笑みを深くした。 やはり、彼女は普段の彼が一番好きなようだ。 茨になることを望む薔薇 (だって、ただ守られるより同じ場所で戦える事の方がずっと幸せだと思うから) 後書き オチが無いのはいつもの事…駄目だとは分かっているけどさ!! 少し天然な遊星と強いアキさんが書きたかったのに見事に玉砕だよ…!! [*前へ] |