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「俺立木さんに告白しよっかなー」
「は、マジかよ。多分ふられるぜ」

ひゅう、と冷たい風が、俺と榎本の間を通る。
立木さんに告白しようとしているのが榎本。
俺の友達で、サッカー仲間で、俺の、好きな人。
さっき言ったふられるぜ、というのには別に悪意や希望があったわけではなくて、純粋に確信しているから出たものだ。
何故なら立木さん、という榎本の想い人は俺に恋をしているから。

報われないなあと思った。俺は榎本が好きで、榎本は立木さんが好きで、立木さんは俺が好き。
全てが一方通行で、繋がっているようで繋がってないこの関係は正直誰も報われない。

「うるせーよ。立木さんが橋本のこと好きなことぐらい知ってるし」

俺、橋本うらやましーわ。と言って榎本は屋上のやたら高いフェンスに背中を預けた。
同じように俺もフェンスに背中を預けてしゃがむ。ががが、と荒い音が響いた。

「橋本はさあ、誰が好きなの」
「は、いねーよ好きな奴なんて」

鼻で笑うように息を吐いて、嘘を吐く。榎本の顔は、何というか歪んでた。

「嘘だろ。立木さん聞いてきたよ、俺に。橋本くんの好きな人知らない?って」

そういえば2回目の立木さんの告白を断るときに、好きな人がいるからと言った気がする。
あれ以降あからさまに絡んでくることはなくなったが、なんだこんなめんどくさいことになってたのか。

「なんだ聞いたのかよ。まあいる……けど、榎本にはぜってー言わね」

ふう、と吐き出した息が白くなっていた。もう少しで冬が来る。
そしたら部活はトレーニング中心になって、多分仲の良い俺と榎本はしばらく一緒だ。
尚更今は言えない。きもいだとか言われて避けられたら生きていける自信はなかった。

「意地悪。俺、別に立木さんに言われたから聞いてるんじゃないんだけど」
「立木さんが関わっててもそうでなくても言わねーし」

しつこい榎本を、は、と笑って立ち上がる。
フェンスに体を向けてグラウンドを見ると立木さんがせっせと部活の準備をしていた。

ここ、上北中学校は俺の家から徒歩で通えるぎりぎりの位置にある、唯一サッカー部のある中学校だ。
上下関係を徹底的に叩き込むためなのか、部活動に絶対入らなければならない。
立木さんはサッカー部の2年マネージャーで、俺と榎本のいっこ上。

「おーい、橋本くん、榎本くん、もうすぐ始まるから降りてきなよー」

そんな立木さんは上級生なのに気さくで接しやすい。今みたいに遅れそうになっていれば呼んでくれる。
榎本はそんなところが気に入ったらしい。俺は正直どうでもよかった。
いつものように呼ばれて俺は手を振り、榎本は笑顔で今行きます、なんて答えている。
そんな様子が最高に面白くなくて榎本をおいて屋上を出た。急いで追いかける、なんてことは榎本はしてくれない。





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