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最近何か足りないなあ、と思っていたら、唐突に原因が分かってしまった。

「え、立木さん、やめたんですか?」

とある十一月の日曜日。試合が近いこともあって本来はない日の練習だった。
俺はまだ一年生で、そして試合に出れるほどの実力もないのでグラウンドの整備とかそこら辺のことしかしない。
だから来ても意味ないとか、つまらないとか思っていたが、今日は意外な情報が入った。

「なんかね、受けたい高校に向けて勉強するんだって。頭いいところらしいよ」
「へぇ……なんか意外です」

練習中の選手の荷物を整理していた二年マネージャーの人から、そういえば君橋本くんだよねえ、と声を掛けられて教えられた情報。
よくよく思い返してみれば、最近立木さんに会った記憶がない。そうか、やめちゃったのか。

「意外だよねえ、でもあの子、それなりに頭いいから……」

そこまで言って、マネージャーはちょっと考えるような素振りをして、そして軽く笑った。

「まあ建前なのよ、建前。本当はねえ、つらかったんだって」
「つらかった?」
「私も詳しいことは分からないんだけどね、ずっと、つらいって言ってて。最近は特にひどかったから、耐えられなくなったんじゃないかなあ」
「……」
「とりあえずやめたからね、っていうことを伝えておこうと思って。じゃあね」

そう言ってマネージャーさんはさっさとその場を去って行った。
俺はマネージャーさんの言葉がずっと心に残って、しばらくその場から動けなかった。

『本当はねえ、つらかったんだって』
『ずっと、つらいって言ってて』
『最近は特にひどかったから』

『耐えられなくなったんじゃないかなあ』

「……はぁ」

マネージャーが整頓していった先輩たちの荷物の前に、ため息を吐きながらしゃがみこむ。
立木さんがやめてしまった原因が何だか俺と榎本の関係にあるような気がしてならなかった。
さっきのマネージャーの言い方も、きっと何も知らないのだろうけど責められてるような感覚がした。

「ねえ」

上手く動けなくなって特に意味もなくずっとしゃがんでいると、不意に声がした。
久しぶりに聞くかわいらしい女の子の声。

「はっしもっとくん」
「う、ぇあ……!?」

明るくリズムを伴った声で名前を呼ばれて、どうして、と久しぶりです、という気持ちが混ざってわけのわからない返しをしてしまった。
恥ずかしくなって膝に顔を埋めると、ちょっと時間良い?と聞かれたのでとりあえずグラウンドを出ることにした。
どこまで出ればいいのだろうというのと、私服の立木さんにちょっと違和感を覚えて視線を彷徨わせていると、ねえ、と声を掛けられ立ち止まった。
あまり俺自身女の子と向かい合って話すことがないというのがあってか、立木さんが小さく感じる。若干、縮んだようにも見えた。





あきゅろす。
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