01



あの日の一件以来、俺と榎本は会話をしていない。
榎本が立木さんと付き合っているという噂も立たなかった。

けど俺の前には、榎本ではない人物がいる。

「橋本さあ、」
「なに」
「えっちゃんと喧嘩でもしたん」

真向いに座ってお菓子を食べる、最近できた友人、嶋は思い出したように呟いた。
えっちゃんというのは榎本のことで、榎本の友達はみんなそう呼ぶ。
俺はえっちゃんという単語にびくりとしながらも、別に、とだけ答えた。

「納得いかんなあ」
「そんなこと言われても」

一番腹が空く2限と3限の間。クラスメイト数人は無断で持ち込んだ菓子類を食べている。
いつもは俺も榎本と一緒に休み時間をぐだぐだ過ごすのだが。
榎本のことを横目で見る。榎本も何も口にしていなかった。空を見ながらぽけーっとしている。
嶋に目を戻すとまだ、納得いかんなあ、なんて言いながら空のビニールを畳んでいた。

「俺が一方的に避けられてるんじゃねーかな」

そういうと、嶋が落ち着いたような、冷静な顔で俺を見てきた。
そんな急に落ち着いたような顔で見られてもなあ、困るんだけど。
小さくなんだよ、というと嶋はゴミ箱に畳んだビニールを投げた。

「俺、そういうはっしー嫌い」
「は?」

ぽす、という音が妙に鮮明に聞こえた。いつもなら流石バスケ部、なんて言えるのに。
嶋は俺のことが嫌い発言をして、他の人のところへ行ってしまった。なんでと聞くタイミングを失った。

「……はぁ」

そういう俺ってなに。どんな俺?俺はそんなにいろんな面があるのか。
机に両肘をついて両手で顔を覆う。考えても今の俺がどんな俺なのかいまいちよく分からなかった。
考えているうちに次の授業の先生が来て、挨拶をして、適当に時間が過ぎて行った。

「気を付けー、礼」
「ありがとうございましたー」

あと1限、英語が過ぎれば昼で、社会と国語が過ぎれば部活だ。
俺は多分今日も榎本と会話ができない。きっと部活は別の友人と組むことになる。
そう思うと憂鬱でたまらなかった。決して別の友人と組むのが嫌なわけではないけど。

「榎本が……」
「そんなに仲直りしたいなら話しかけに行けばいいじゃん」
「……無理」

一人だと思っていたところに声が降ってきた。





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