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通いなれた道を曲がって、ここに着いたのは30分前。
白く泡立った水と共に流れてくる青みがかって見える水が、俺の座っている岩にぶつかって大きな音を立てたのがついさっき。
あいつがここに来るんじゃないかと期待しているのが、今。

はぁ、と吐き出したため息が白くなって空に消える。
春の早朝はまだ寒い。持ってきておいたひざ掛けを丸め、その中に顔を埋める。
まだ空が白いだけで日は昇っていない。ひざ掛けから顔半分だけ出して、腕時計を見た。
5時を数分過ぎている。もう少しで日が昇る。タイムリミットは近かった。

こんなに早く来て、来るかも分からないあいつを待つなんて。
馬鹿みたいだ、と一人で呟いてひざ掛けに先程出した顔半分を埋めた。
体温で少しずつひざ掛けが暖かくなっていく。

ざん、と一段と大きい波の音と共に、期待していた声が降ってきた。

「なに、やってんの」

こんなところで、と言われるのと同時に顔を上げる。
目の前には待っていたあいつの顔があった。

「からすまこそ、なに」

随分寒さにやられてうまく動かせない口を動かし必死に返事をすると、目の前の顔が笑った。

「窓見たら、こーたが見えたから」
「……こんな早く起きてんのかよ」

間をおいて疑うように言うと、笑顔で歪んだ顔を更に笑みで歪めた。
どこまでこいつは笑うことができるんだろうか。昔、そう思ったことがある。

「起きてるに決まってるじゃん!」

元気にそう言った目の前の男、改め烏丸は明日県外へと引っ越してしまう。

「今日で最後だからさ、ここの日の出が見れんの」

烏丸と俺は、昨日義務教育が終了した。それを機会に、烏丸の母親は結婚するらしい。だから引っ越し。
昨日あった卒業式でばいばいと言い合った軽い付き合いの奴らより、親友と言ってもいいくらい仲の良い烏丸は遠くに行ってしまう。
だから俺は、前にちらっとだけ聞いた日の出見るの結構好きなんだよねという発言を信じてここに来たのだ。

今日がきっと烏丸と話ができる最後の日。

「日の出なんて窓から見れんだろ。ここくる必要なくね」
「ここまで来たのはこーたが見えたからだって」

俺の嫌味のような発言にも、烏丸は笑顔を崩さずに返事をしてくれる。
どうしてこうも素直にここに来てくれたことにお礼を言えないのか。まあそういう性格なのは昔からなのだけれど。
烏丸の笑顔にどうしようもなくなって、俺は逃げるように反対方向へと顔を向けた。

来てくれてうれしい。俺は烏丸と話がしたいと思ってここに来たのだから。
頭に出てくるこんな言葉は発することができずにため息に変わる。

「……はぁ、」
「こーた」

波の打ちつける音の後に、ゆっくりと名前を呼ばれた。
波の音で俺のおもっくるしいため息はかき消された。すぐに、返事はできなかった。





あきゅろす。
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