おはなし。
『…月、話があるの。』
月の部屋のチャイムを鳴らしてから応答がなかったので呼び掛ける。
少し経って玄関が静かに開いた。
俯いていた顔を上げるとそこにいたのは月ではなかった。
『何で、此処に…。』
「月くんは貴女に会いたくないって。」
『嘘だ。』
目の前で嫌な微笑みを向けてくる風紀副委員長兼、月のファンクラブ隊長の月詠芽衣。
敵意ともとれるその視線に居たたまれなくなる。
「嘘じゃないよ。嗚呼、そういえば、」
思い出した、とでも言うように笑う月詠。
「貴女、力失ったんだって?
だからじゃないかなぁ。月くん、貴女に愛想が尽きたんだよ、きっと。」
『……っ…。』
悔しくて下唇を噛んだ。
他人に言われなくたって分かっている。
あの力があったからこそ、周りに人が寄ってきていた。
そんなこと、昔から気づいていた。
だけどそれを手放せなかったのは怖かったから。
見捨てられるのが。
「勝手な事ばっかり言わないで月詠。」
『月…。』
部屋の奥から月が出てきた。
月の顔を見た途端、表情が一転した月詠。
この子は本当に月が好きなのだと思い知らされた。
「れーちゃん入って。」
月の言葉にこくりと頷いて足を進める。
私と入れ違いに月詠が部屋から出て行き、何故だか気まずい空気が流れる。
それを先に打ち破ったのは月。
「…れーちゃん僕のこと怒ってる?」
そっぽを向いたまま投げ掛けられた質問に首を傾げる。
『怒ってないよ…。』
何故私が月を怒らなければいけない?
「嘘だ…っ!!!」
私の答えに何をどう捉えたのか、ぎろりと此方に目を向け蔓で首を締め上げられる。
力を失ってしまった非力な私はもがくことしか出来ない。
『ぐ…っ、ぅ゙…。』
「今なら…れーちゃんのこと、殺せちゃうかもね…。」
自嘲的に呟く月の言葉に苦しみながらも笑みを浮かべる。
『く、はっ…、殺れ。
そ、れでっ、気がすむの…ならっ。』
「!!…ばか。れーちゃんのばか…!」
力なく離れていく蔓に脱力してると月が抱き着いて来た。
余り力が入らない手で月の頭を撫でる。
「れーちゃんはっ、何にもわかって、ないじゃんかぁっ…!
抵抗ぐらいしてよ…!!何でっ…、何で自分より僕の事を優先するのっ!!」
泣いているのか、肩の部分が濡れていく。
震える背中に腕を回す。
「好き…、すき、なのっれーちゃんっっ…!!」
『うん。』
「施設でっ、会った時から、…ずっと!」
『……私は月が思ってる程出来た人間じゃない。』
「〜っ、そんなことない!!」
肩に埋めていた顔をがばりと上げた月は予想通り涙で頬が濡れていた。
(その思いは)
(深く、深く)
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