素直に。 【side:蓬来 零】 "辛い"と言った時の会長の顔が頭から離れない。 何であんな……っ、 『……は、』 短く息を吐いて、自室のベッドの枕に顔を埋めた。 私、何か不味いこと言ってしまっただろうか…。 わからない。 「零?」 とんとん、と軽くドアを叩く音と自分の名前を呼ぶ媛乃の声。 反応するうるの頭を撫でてから扉に向かう。 『…なに、媛乃。』 「何て顔してんのよ、馬鹿。」 私の顔を見た途端、泣きそうな顔で笑う媛乃。 そっちこそ、何て顔をしてるんだ…。 でもその顔をさせてるのは紛れもない私。 「零、あたしは零の味方よ?」 『わかっ、てる…。だけど、私…っ!』 「怖がってちゃ駄目。 零が何を言っても、月も皇雅も貴女を嫌いになんてならないから。」 ね、と同意を求めてくる媛乃から目線を逸らす。 媛乃の肩に額を当てると頭を撫でられた。 一緒に居る時間は短いけど、媛乃は私の親友だ。勿論月も。 「そろそろ自分の為に強くなりなさい。自分に尽くしなさい。」 『わ、たしは…っ、今まで自分の為にっ「違うでしょう? 自分の為に生きてきたのなら、何で月を助けたの。」 『それ、は、邪魔…だったから。』 中学3年の頃、月は上級生から絡まれていた。 それを私が蹴散らした事がある。 そう、別に月の為じゃない。 通り道を塞がれて邪魔だったから。 「何で頼まれたからってあたしと友達になったりしたの。」 『それは…、』 「何で……、何で歓迎会の時、あたしと戦ってまで止めたの。」 『っ!覚えてるの!?』 顔を上げて媛乃を見ると笑っていた。 それは肯定の意。 いやでもあの時、媛乃は覚えていなかった。 もしかして覚えていない振りでも…? 「自分のことを第1に考えて。 心配なの。零の親友だもの、当たり前でしょ?」 ほら、と促され部屋を出た。 自室にいるらしい月と話をする為、走り出す。 早く行かないと手遅れになりそうな気がして。 (貴女の過去を知ってしまった) (せめてもの償い) *前次# |