屋上。
【side:鴻 皇雅】
解任、着任式の間、零は戻って来なくて、翠は沈みっぱなしだった。
生徒を全て教室に帰してから雅臣と手分けして校内を見回り。
「お前…、」
屋上に繋がる階段を通り過ぎようとした時、下りてくる見知っている生徒。
猫を被ってない態度に少しほっとした。
「あぁ、誰かと思えば会長。」
「何をしている。」
「別に?」
女子顔負けの顔でにこりと微笑んだ月。
それにしてもさっきから感じるこの妙な力の気配はなんだ?
「僕のことより会長、早く行ってあげた方がいーよ?」
「は?」
「会長の大好きな子、泣いてるかもね。」
その言葉を聞いた瞬間に、階段を駈け上がった。
通り過ぎ間際に"初恋は叶わないんだよね"と呟いた月の横顔は哀しそうに歪んでいた。
がたん!
思い切り扉を開くと、端の方で踞る小さな身体。
膝を抱え、膝に顔を押し付けている為、泣いているのかは分からない。
「れい、」
『………何がなんだか分からない。一遍に言われたって、わかんない…。』
零の右隣に行き、腰掛けた。
泣いているのかと思うと、触れることが億劫になってしまう。
なんて、今手を差し伸べてあげれるのは俺だけだっていうのに。
『月は…、もう……』
「…彼奴に何を言われたか知らないが、お前はどうしたいんだ。」
『……。』
黙り込んでしまった零を見かねて再び口を開く。
「零、周りを見れることは誰もが出来ることではない。
だがお前は自分を気にしなさすぎだ。」
零の頭に手を遣り、髪を梳く。
綺麗な黒髪はさらさらと手のひらから落ちていく。
『…会長は、私なんかと違って何でも出来る。』
ゆっくりと頭を上げた零は泣いていなかった。
だけど苦しそうな、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「何でも出来る、か。
何かそれ、辛いな…。」
ぽつり。
呟いた言葉に返事はなかった。
(守ることが出来ない俺は)
("何でも"なんて程遠い)
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