気絶と喪失。
「俺を逃げ口にするな。」
そう言われてはっとなる。
私、キョウくんを利用しようとしてた…。
嫌なことから逃げようとしてた。
『ごめんなさい…。』
「ん。分かればいいんだ。」
よしよしと頭を撫でられる。
そして漸く、サクの部屋の扉が開いた。
見遣ると疲れた顔の凪とお父さんに慌てて駆け寄る。
『お父さん…っ、』
がしりと腕を掴み詳細を聞こうとしたら首を横に振るお父さん。
凪はこれでもかって程、眉間に皺を刻んでいた。
嘘だ…、そんなこと…、ある、わけ……
急いでサクの元に駆け寄り、肩を揺さぶった、けど……反応は無い。
『サク…っ、なんで……!』
落ちる透明な液体を止めることは出来ない。
肩に手が置かれ、手を置いた人物を見上げるとお父さんだった。
『なん、とか…っ、ならな、い?ねぇっ…!』
「手が無いわけではないよ。唯ね、レイの力を借りなきゃ出来ない。」
『いいっ、それでいいから…!』
悲願する私を見下ろすお父さんの顔は昔と変わらず優しかった。
悲しみの色が混じっていたことは気づかない振りをした。
「いいの?本当に?
魔族じゃなくなっちゃうんだよ?」
『私は…、サクをっ助け、たい!』
そう、と頷いたお父さんは、凪を外に出し、今度は私とお父さんだけになった。
何をするのか、と不安にもなったが、此も全てサクの為。
「姿を現せ、無の精霊よ。」
「…呼んだか、王よ。」
ふわり、と羽が舞うように現れたのは前に1度だけ会った無の精霊だった。
「どうせ見てたんだからわかるでしょう?早くしないとミカエルは息絶える。」
「だが王…っ、零が力を失ったら世界は……、「此処でする話じゃないよ。早く。」
静かに話す2人の声は、サクの事で頭がいっぱいな私の耳に届くことはなかった。
無の精霊はこくりと頷き、頭上に手を掲げた。
「闇、光、風、火、水、地、氷、雷、時、音…総ての力を持つ我子よ。
持って生まれし無の力、喪失と引き換えに力無き子を更正することを此処に誓う。」
『ふ、あ゙ぁぁぁぁ…っ、』
「響け天声…!我、王に遣えし精霊成り!」
息が出来ない。苦しい。
力が抜けていくのが分かる。
嗚呼、このまま死んでしまうのかな…。
でも、この穢れた命…、大切な人の為に絶えるのも悪くない。
遠くで会長やマスター達の幻聴が聞こえ、意識が途切れた。
(こんな)(穢れた力なんて)
*前
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