選択。
無理矢理連れて来られてから3ヶ月が経った。
結局前の主は私を連れ戻しには来なかった。
そしていきなり言われた一言。
何を言っているのかさっぱりわからなかった。
がっこう…。
確か力有る者は使い方を学ばなければいけないと聞いたことがあるけれど。
実際私は自分の力を重々理解しているつもりだ。
がっこうなんて行かなくてもいいと思うけど。
「零がいないとつまんないんだもん。」
『そんな理由?』
「うん。ね、いいでしょ?」
小首を傾げるマスターに溜息しか出てこない。
ここに来てから奴隷として処かマスターと同じように扱ってもらっている。
香蓬院家は代々優秀な強い魔力を持つ家系。
マスターの父親はこの世界のいくつもの地を治めている偉い人。
その香蓬院に並ぶのが鴻と萩元。
マスターの幼馴染み達だ。
まぁ、そんなお坊っちゃまなマスターはやりたい放題。
お母様もマスターが可愛いみたいで7歳にしてこの性格。
……困ったもんだ。
「黙ってるってことはいいってことだよね?」
『え…、』
「よし、けってーい!」
座っていたソファーからぴょんっと飛び降り部屋を出て行ってしまった。
考え事をしていただけなのに…。
その日の夜、部屋に旦那様が訪れた。
「零…、起きているか。」
『はい、旦那様。』
「旦那様はよせ。
翠の頼みとはいえ、お前を受け入れてから家族だと思っている。」
『ありがとうございます。』
優しい人達。
その優しさがたまに怖くなる。
誰もがこの力を欲しがった。
5歳になれば自分の属性を把握しなければならない。
私の属性は無。
無はすべての属性の力が使える。
もしも。
もしもの話だけれど利用されていたら?そう考えると怖くて仕方がない。
「敬語も止めてほしいが…、徐々に、な。」
『はい。』
困ったように微笑む旦那様はマスターによく似ている。
似てると言ってもそこまで似てる訳ではなくて、旦那様の方が圧倒的に男らしい人。
マスターが綺麗だったら旦那様はかっこいい。
「あぁ、そうだ零、諏央に行くんだって?どうせ翠が無理矢理言ったんだろう?」
『確かに昼間そのような話はしましたが、無理矢理でありません。』
「自ら行くことを望んだと?」
『はい。』
ゆっくり頷くと何処か落胆したような表情をし、そうか…。と呟く旦那様に小首を傾げてしまう。
不味いことを言ってしまった?
『旦那様…?』
「翠ならまだしも零も出て言ってしまうのか…。漸く娘が出来たと思ったのに……。」
ああ、そんなこと。
訳を知って頬が緩むのがわかる。
笑ってはいけない、真面目な話をしてるのに堪えきれない。
「……笑うなんて酷いじゃないか、零。」
『ぷ、くく…、ごめ、なさい…っ。』
「よかった…。」
『?何がですか。』
「いや、翠に連れて来られた零を見て、ひどく驚いてね。」
眉を下げて悲しそうに言う旦那様から思わず目を逸らしてしまう。
表情が乏しかった。
いや、無いと言った方が正しいのか、眉1つぴくりとも動かなかった。
旦那様とお母様はとても心配している、とマスターに聞いたことがある。
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