白い指、赤い頬
大丈夫、大丈夫よ私。今日はあの人にいっつもくっついてる(そりゃもう金魚の糞みたいに!)あの女もいないし、お店もあんまり忙しくもなさそうだもん。
「夾竹桃…を、頂けます か?」
「あっはい!えっと、」
あの人からのご注文!俄然張り切っちゃうんだからっ!とかなんとか思ってたけど、でもいざとなると目も合わせられないヘタレな私。もーいや。せっかくあの人に頼まれた商品なのに、ああ、それを探す手も焦って震え出す。
「どう、しました?」
「なんっ!でもないですよ、ごめんなさいねすぐ出しますんでねっ!」
最悪だ、ここで悪い印象なんて付けたくない。迅速、かつ的確に。それがモットーだったのに。どうしようなんだか泣けてきた。
「そうではなくて、頬 が」
そう言って触れられた頬に一瞬、冷たい感触があって、すぐまた熱くなった。というよりむしろ、さっきより、もっと熱く。
「…や、あ…え、っと…」
いやだ、今の私きっと酷い顔。真っ赤で、こんな呆けて言葉も出て来なくて、恥ずかしい。でも、だって、あんなふうに頬に触れられたら、誰だって。
「今日はお暇する事に しましょう、か」
「えっそんな、…や、でもっ!」
突然の出来事ばかりでしどろもどろする。だってそう、まだご所望の夾竹桃だってお売り出来てませんしって、そう言わなくちゃいけないのに、言葉が出て来ない。…馬鹿私!
「夾竹桃も、頂き ましたしね」
「え?」
「ほら、此処に?」
もう一度、白くて細い指が私の頬に、そこからうっすらと熱を帯びる。…ああそうか。嫌になるくらい、もう何度だって赤くなる。
「…意地悪な人ね」
「其れ程かも 知れません」
にやりと笑う口元に溜め息をつく。この人は知っているんだろうか、知っていてやっているんだろうか。そんな事をされちゃ私が諦めようにも諦められないって。どうしようもなく、惚れてしまったって。
次にご来店下さった時までには、言えるように、しておかないと。
夾竹桃【キョウチクトウ】
キョウチクトウ科キョウチクトウ属
白や濃いピンクの花を咲かせる立木。
見た目は可愛らしいが強い毒性があり、毒薬として使われたりもする。
花言葉は危険、注意、恵まれた人。
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