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1,2,3で忘れて
校門を出てすぐ教室にタオルを忘れたことに気付いた。ああ、最悪。いつもは忘れ物なんてしないのに、急いでるときに限ってこういうことになる。今日はユースの練習があるのに。

走りはしない、早歩き程度に廊下を進む。誰もいない教室のドアをあけた。少し苛立っていたせいか乱暴だったかもしれない。机の上に置いたままのタオルはすぐ見つかったけれど、俺の席に座っていたのは藤代だった。

俺は無言でそのタオルを持って背を向けようとしたけど、藤代は俺に気付いているのかいないのか、うつむいたままだった。関係ないし、そのまま帰れば良かったのに


「下校時間過ぎてるよ」


声を掛けてしまった。

藤代は左手で顔を隠しながらゆっくり顔をあげた。「うん、ごめんね気付かなかった」と彼女は言ったけど、気付かないわけない。何も知らないけど、なんとなく理解した自分の勘の鋭さが今は憎らしい。(どう声を掛けたらいいかが分かる)(そしてここにいるのは俺だけ)

藤代はいつも笑ってる。俺からしたら不思議なくらい誰にでも笑いかけてる。人当たりもいいし、嫌な印象は少しもない気がする。まぁ、そこがうさん臭かったりするんだけど。


「別に無理しなくていいんじゃない」
「なに、言って…あはは、郭くん面白いね」
「俺には無理矢理笑いかけなくていいから」


そんな貼り付けたように笑って楽しいの?意味がわからないな。俺がため息をついたと同時に顔をあげた藤代は、笑うのをやめていた。


「あの!」
「…なに」
「3秒数えるから忘れて!」
「は?」


なにそれ、と言えば彼女は自然に笑った。こんな表情初めて見た、出来るならいつもこんな風に笑えばいいのに。


「そんなことより」


気付いてないの?その涙で濡れた顔、とても男の子に見せる顔じゃないよ。


「拭けば」


手に持っていたタオルを投げた。ありがとうと言った顔が本日二度目の藤代の本当の笑った顔だった。





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