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やさしくしないで、ダーリン


(例えば殴られたり蹴られたりだとか、世間一般では暴力としか認識されないようなやり取りも、アンタから与えられるものならば俺は喜んで享受するのだけれど、)


「土方…」

掠れた声が耳を撫でて、それから大きな掌が降ってきた。切れてヒリヒリと痛む目許にそっと触れ、滲んだ傷口を優しく撫でる。今宵この部屋に入ってから一番に付けられた傷だった。ガツリと骨がぶつかる音がしてそれから左目は開けられないままでいたけれど、こんな風にやわらかく触れられれば多少無理をしてでもその温かい節くれだった指を見たいと思う。ぴくぴくと動くだけの瞼は思うように開かず、みっともない姿を晒すだけで微かに苛立てば、優しい親指が睫毛の上を一撫でしていった。その仕草になんだかそのまま目を閉じていろと言われたような気がして、それから左目に彼を映そうとはしなかった。

はぁ、と熱い息がこぼれた。
布団のうえに投げ出された身体はぐったりと重い。愛された重みだった。まだ充分には動かないその上を、坂田の指が滑っていく。噛まれた跡や紫になりはじめた部分に触れるたびひくりと身体は波打った。痛い。だのに彼が触れているのだと思えばそんな痛みも甘く響くだけなものだから、もはや笑うしかなかった。毒のような物なのだろうか。高杉からは随分麻痺してきていると以前言われた。そうかも知れない。だが例えそうだとしても自分にはさして関係のないことだった。どうあってもこの指先を拒むことなど出来はしないのだ。

一通り傷口をなぞった指はふわりと離れていった。なんだか淋しいと頭の片隅ひそりと思う。思ったところでそれを伝えられる術など持ち合わせてはいないのだけれど、その温かな熱が離れていくのがなんだか堪らなく惜しいと思った。


酷くされるのは平気だ。自分は女ではないから乱暴にされたって簡単には壊れない。どうにも傷に苛まれることもあるけれど、坂田から受けたものであるのなら自分にとって愛おしいものでしかない。どんなに酷く嬲られても自分はただそれを受け止めるだけなのだ。


「土方」

絞り出したような苦しい響きのあとに、背中に温かな熱が触れた。嗅ぎなれた甘い匂いが自分を包んでいるのだと知れた瞬間、胸が掻きむしられるように騒いだ。俯せのまま動かない身体の上、そっと坂田が覆い被さっている。腹の下に手を滑り込ませ、ぎゅっと抱き締められた。首筋に嫌々をするように擦り寄られ、それから身体を横向きにさせられる。

「……ッ」

動いた瞬間、思わず緩んだ股からごぷりと生暖かい液体が溢れ出てきたものだから、慌てて力を入れようとすればいつの間に滑らせたのか脚の間には堅い男の指があった。そのままこぼれ落ちる精液を掬いながら再び震えるそこに指を差し入れ内壁に擦りつけた。

「あッ、……ッ」

長く骨張った指が溜まった液体を塗り込めるように何度も壁に触れる。そのうち二本、三本と増やされた指は混じり合った二人の体液を泡立てるように激しく掻き回しはじめた。優しく中を擦っていた動きから一転、手首を使った激しい抜き差しにぐちゃぐちゃと止まらぬ粘着音が耳を犯した。堪えられなくなって思わず指を噛む。身体の奥が焼かれているように熱かった。

「土方…」

熱い吐息が耳を掠めてうっすらと目を開ければ目の前で坂田は穏やかに笑っていた。激しく動かす右手とは裏腹に、優しくもう片方の手で今だ噛んでいる指を掴む。そして口許から離させるとそっと指先にキスをしてそのまま薬指の付け根に思い切り歯を立てた。

「いッ!ッ、…ッ」

ざらりとした舌が歯が当たった場所をなぞればピリピリとした痛みを感じて血が出たのだと知る。口から薬指を離すと、ぐるりと赤い輪が指を彩っていた。その滲んだ跡が鈍く光る銀色を連想させてドキリとする。

「好きだよ」

甘く響いた音色にこれ以上ないほど胸が騒いで、それから降りてきた坂田の柔らかい唇を受け止めた。


酷くされるのは平気だ。自分は女ではないから簡単に壊れたりしない。痛め付けられることもアンタから与えられるものであるのなら自分はなんだって受け入れるだろう。だけどこんな風に触れられるとどうにもいろんなものが緩んで堪らなくなって、なんだか酷く胸が苦しくなるから、そんなふうに俺に優しくしないでいいんだよって震える胸の中何度も繰り返した。


「好きだ」

角度を変えて何度も深く交わす口付けの合間、ぽつりと坂田は漏らした。
たった三文字の言葉が驚くほど自分の中に染み込んでいったものだから、温かい腕のなかでほんの少し泣いた。


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今年一発目、ゲロ甘である。
20100110

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