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アンタは知らない


「おはようございやす土方コノヤロー。朝っぱらからアンタとツラ合わせるなんて今日はろくでもねぇ一日になりそうだ」
「そうかそうか、そんなに死にたいか」

毎朝のやりとりは、顔を合わせれば始まる嫌味の応酬は、もうずいぶんとそれこそ出会ってから一度だって欠かすことなく続けられているけれど。

アンタは知らない。

俺がどれだけこの軽口を大事に思っているか。どれほどこの時間を大切に思っているか。

(絶対に口には出さないけれど、)


好きですよ、アンタが。


アンタを好きだと自覚したのは、アンタがあのうさん臭い野郎と付き合いはじめるずっと前。ガキの頃から隣にいて、いつでもその整った顔を見上げていた。綺麗な黒い瞳が俺を映すときが一等好きで、俺だけを写して欲しくて。何度もちょっかい出しては怒られて。そんな時間が楽しくて嬉しくて、何より尊いものだったのに。

気付けばアンタは野郎のものになっていた。これがまた見た目に違わず相当にイカれた野郎で、女に手を挙げることも厭わないようなろくでなしで。腫れ上がった頬を晒して仕事をするのも一度や二度の話ではないし、どこが良いんだか貞淑な妻よろしく何をされても許してしまうのだから、こちも呆れかえるばかりだ。離れるつもりはないようで、人が心配しても返ってくるのはいわゆる惚気でいい加減馬鹿らしくなってくるのだけれど。


(…なんか、ゆるい)


いつもの調子でからかえば、なんだか反応がいまいちだった。普段なら腰に手をかけるはずのそれは重力に従って下を向いたままだし、くわえ煙草、口許はゆるく上がっていて、それから……あぁ、なるほど。目許がほんのり色付いている。

「よっ」
「ッ、てぇ!」

腰に向かって一蹴り。たいして力は込めていないが反応から察するにそれなりには効いたようだ。

「てめッ、何しやがる!」
「いやーお盛んなようで何より。見てると腹立つんで」
「ふざけろクソガキッ」

腰をさすりながら忌ま忌ましそうに睨み付けてくる様子にほっと安堵する。俺が一番よく知ってるアンタだ。

「善くしてもらったみてぇじゃねーですか。旦那はそんなにイイですかィ?」
「オメェとは比べものになんねぇよ」
「アンタの色眼鏡には頭が下がらァ」

名前を出すだけで染まる頬に、よっぽど惚れてやがるんだと嫌でも再認識させられる。見た目と違って存外おぼごいこの上司のこういうあまい部分が好きなのだけれど、出来ればその頬を赤らめる対象が自分だったらなぁと考えないでもない。
優しくできるかはわからない。
でも酷くはしないと思うのだ。こんな風に軽口を叩いてどつき合ったり、でも恋人として触れ合うときにはやわらかく満たしてやるだろう、それぐらい俺はアンタに惚れている。


アンタは知らない。


俺がどんなにどんな風にアンタを想っているか。

腫れぼったい瞼や切れて血が滲んだ唇に、口づけたいと思ってる。頼りなくふらつくその身体を、支えてやりたいと思ってる。アンタは気付きもしないけど。俺はいつでも見てるんです。困らせてばかりなのは知っているから、これ以上面倒かけないように黙っているつもりだけれど。
アンタはそうやって俺におちょくられてるのが一番なんですよ。

…アンタは知らないだろうけど。


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沖田くんは毎回惚気聞かされてるんだよ。
20091214

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あきゅろす。
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