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今日も今日とて


この屋敷も随分慣れ親しんだなぁと思いながらカラリと戸口を滑らせた。以前までお世話になっていた家は年甲斐もなく繰り広げた大喧嘩によってとても住めるような状態ではなくなり引き払った(とは言え下っ端の集まりに使わせているようだが)。

毎度のことになりつつある場所の手配をする男は野郎の手前、「銀時のためなら仕方あるまい」とにこやかに言っていたがその実隠れて悪態をついていたのを知っている。銀時に頼まれたからしてやったがなぜ俺があの男女のために場所を提供してやらねばならぬのだとぐちぐち文句を垂れるそれはまるで小姑かなにかのようだった。男女というのはなりで言えばお前の方ではないのかとうざったい長髪を指して言えば、奴はただしく掘られているから男女なのだと返された。まさしくその通りなので反論はしなかった。

みしりと床を踏み締める音に混じってかすかながら話し声が聞こえた。居間のほうからだ。玄関に置かれていた靴は見慣れたものでいつもの三人が集まっているのだろうと知る。あの馬鹿でかい下駄はなかった。久しく坂本に会っていないなと思ったが別段これといって会いたいわけではないし居ればあの大柄の男の喧しい笑い声だなんだを聞かなければならないからやはりいつもの面子で良かった。旧知の中で真面目に仕事に勤しむただ一人の存在だ。ひんやりとした床にふるりとしながら居間に足を踏み入れるかいなかというとき、やはり見知った男共にぞろぞろと出くわした。

「おー高杉、来たのか」
「お前は来るなら来るで連絡を寄こせといつも言っておるだろう…!」

口々に語るのをうんざりしながら流せばふわふわした髪の男がへらりと笑う。

「俺らこれから飲んでくんだけどお前は?」
「……遠慮する」

寒空の下歩いてきたのだ、早く暖まりたいのが本音だ。それよりお前ら入口に並ぶんじゃねぇ入れねぇだろと言えば悪ぃ悪ぃと悪びれた様子もなく道をあけられた。今だにダラダラ不満をこぼしている長髪は知らぬふりだ。そのまま目を合わせることなく部屋へ入れば後ろから「頼んだぜ」と響いたが聞こえないふりをして無視した。得物を自分の定位置に立てかけ玄関の扉が閉まる音を聞いてから足早に居間を後にする。踏み入れた先は寝室だ。

これまたお決まりというかなんというか、その人は布団の上ぐったりと横たわっていた。こもった空気に眉を寄せる。布団の横、そっと腰を落とせば視線だけがちろりとこちらを向いた。

「出かけた。明日は?」
「しごと。……きょう、ひばんだった」

この男は普段も随分と掠れた声をしているが今のそれは比ではない。ふぅと息をひとつはいて張り付いた前髪を払ってやる。それから汚れたシーツを剥いで身体に巻き付けてやった。どうせ身体も汚れている。そのままよたよたと覚束ない足取りの彼を支えて風呂場へ向かった。処理をしている間に湯はたまるだろう入浴している間にあの湿った空気を入れ換えてそれから熱燗の準備だ。つらつら考えながら浴室に連れて行った。どうせ今夜はあの二人は帰ってこない、二人きりだ。あがったら酌に付き合えと言えば彼は赤い目許を緩ませた。その仕草になんだかなぁと思いながら今日は早く寝ようとそっと掌に力を込めた。


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彼らの日常。
20091029

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あきゅろす。
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