本日の当たり屋 「俺…今日ホント無理。あ、寝室使うから、お前ら居間で寝ろよ」 げほげほ、よぼよぼと、普段のやる気ない半目からさらに重たくなった瞼を数回擦りながら、白髪頭は家に帰るなり告げた。彼の帰りを心待ちにしていたその嫁と下僕は赤く火照ったマスク姿を見ていつもの不仲を覆すように声を揃えた。 「「坂田・銀時ーーーッ!!!」」 「うるせぇ」 二人殴られるのも同時だった。 ようはただの風邪だ。熱が若干高いようだが取り立てて騒ぐほどではない。そもそも成人もとうに過ぎた野郎が、ましてあの銀時が、たかだか風邪ごときでくたばるたまではないのだが、大層お熱なこの嫁姑は気が気でないらしい。普段ならあの事務所で布団を被ってそうなものだが、おそらくあの怪獣娘に移るからと追い出されたに違いない。抜目ないからな、あの嬢ちゃんは。しかしそのおかげでこちらは散々だ。先程から二人はおろおろと非常に世話しない。当然、目の前で落ち着きなく騒がれればこちらの気も散るもので。 「なァ…お前らいい加減おとなしくしろよ」 はぁとため息をこぼせばこれまた二人揃って返事が返ってきた。 「「だって心配なんだもん」」 お前ら、実は仲良いだろ。 それにしたって出来ることは限られている。銀時はとにかく静かにしろ、用があったらこちらから呼ぶ、とにかく寝るの三つを強制してさっさと部屋に篭ってしまった。部屋に入る際、あらかた必要な物を持っていったようなのでこちら側は特にすることもない。することもないのだがそれでも何かしてやりたいのが慕情というものなのだろう、とにかく落ち着きのない二人だ。やれ粥を作るか、着替えはどうするか。用があるまで静かにしてろって言われただろ。ひとたび奥の部屋からげほげほと咳込む声がすれば喜劇が始まる。 「あぁ、今この時銀時が苦しんでるかと思うとッ…くっ!」 「ぐずっ…変われるもんなら変わってやりてぇ…」 「じゃあ貴様が変われ、今すぐ変われ、そして朽ちろ」 「なんだとテメェ!」 「おい、うるせぇぞ」 飽きもせず繰り返すやり取りにだんだん面倒臭くなってきた頃、とうとう長髪が立ち上がった。 「やはり心配でならん!…ちょっと様子を見てくる」 「あっ、テメェずりぃぞ!俺もッ」 「わーった、わかったからさっさと行ってこいヅラ」 「むがーッ!」 後ろから土方の口を押さえつけて促した。その隙にしれっとヅラは寝室へ向かう。自分も行きたい土方はバタバタと抵抗するが、様子見すんぞと耳打ちすればぴたりと止んだ。部屋の入口、えーごほんごほんと何を緊張しているんだか咳ばらいをしている長髪を廊下からこっそり眺める。銀時入るぞ、と断りを入れて襖の奥へ消えて行ってからものの数秒も絶たないうち部屋の中から何やら鈍い音が聞こえてきた。それからボコボコになったヅラが出てくる。 「咳は酷かったが命に別状はないらしい。可愛い看護婦さんと今週号のジャンプをご所望だ」 「そうか、ご苦労。鼻血出てんぞ」 「………」 顔を見れただけでも随分マシだったのだろう、殴られた顔はとても見れたものではないが本人は至って晴れやかだ。俺のとなり、何も言わない土方を見てこれで心配することもねぇだろと声をかけようとすれば、「あ」と小さく声をあげバタバタと別室に行ってしまった。しばらくして戻ってきた姿に目を見張る。 「これで問題ねぇだろ!」 そこには真っ白の清楚がうりな白衣の天使と呼ばれるソレではなく、ピンク色のいかにも夜の大人向けのナース服を着込んだ土方が立っていた。右手にはジャンプだ。 「なっ…!貴様どこでそれを!」 「以前銀時に買ってもらった」 「そのジャンプは!」 「本日発売最新号、今日会ったら渡すつもりで買っておいたんだ。抜かりはねぇぜ…!」 得意げに動くたび丈の短いスカートからちらちら見える領域が眩しい。白いレースのガーターの下、女物の下着だろうか。ちくしょう、銀時の野郎良い趣味してやがる。 「まだ二回しか使ってねぇからな、染み抜きも完璧だしまだ充分使えるぜ」 にかりと嬉しそうな顔で何やらとんでもない事を言っているが本人は幸せそうなので突っ込まなかった。長髪は今にも発狂しそうだが。 「じゃ、ちょっと行ってくる」 緊張で頬を染めた看護婦さんはいそいそと部屋へ向かう。そう上手くいくものかと隣から聞こえたが無視した。やはりこちらも入口で深呼吸している。…ちくしょう可愛いじゃねぇか。そのまま部屋に入ってから数分。先程とはうって変わって穏やかだ。しばらくして部屋から出てきた土方はよたよたと覚束ない。こちらへ着いたと同時に力尽きたようで、ふらふら床へ座り込む前に支えてやった。 「はぁっ…坂田、喜んでくれた…ッ」 はぁはぁ喘ぎながら目許を潤ませピンクの看護婦さんは告げた。半開きの唇はしっとりと艶やかで、見れば自分でスカートを押し上げている。 「なんだァ?やらしい看護婦さんだな、悪戯されたのか?」 「あっ、やぁん!」 スカートの下、くにゅくにゅと膨らみを弄ってやれば薄い下着はすぐに湿りはじめた。 「アイツなんて?」 「あっ、アンタに、抜いてもらえ、って…ッあ」 「そうか、あんたはイイのか?」 「あっ、あッ、い、からっ、はや、くぅッ!」 りょーかいと耳許で囁いてから膝裏をすくって抱き上げた。居間のソファに優しく倒してやって、熱に震える土方を堪能する。人間、苦労すれば必ず良いことが返ってくるんだなぁ。しみじみだ。さて、待たせるのも悪いので可愛い看護婦さんを頂くとするか。久しぶりの上玉に心の中で手を合わせた。 ……ヅラ?やけ酒してるぜ。 -------- たまにはご褒美。 20091115 [*前へ][次へ#] [戻る] |