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この泥棒猫!


真撰組の鬼の副長こと幕府の狗の土方のオカマがくだらん捕物で間抜けにも刀傷をつくってきたのがつい先日。ざまぁみろと笑ってやりたかったのだが、そんな事をすれば我らが銀時の怒りを買うことは必須だったので得意のポーカーフェイスで切り抜けようとしたら一発殴られた。何故だ。俺は微動だにしなかったはずだ。空気を、俺の心を読んだというのか銀時…!
さすがと言うよりほかあるまい。相も変わらず素晴らしい男だ。是非ともまたこちら側に復帰してもらい、この国のため心血を注いではくれぬだろうか。そうすればあの小憎らしい真……話がそれてしまった。

あの土方のオカマがだらしのないことに傷をこさえてしまったことで銀時の怒りは最高潮だった。その日、たまには家で呑み語ろうと持ってきたどこぞの有名な地酒は、台所の隅置かれたままで結局栓を抜かれることはなかった。俺が屋敷に足を踏み入れる前にはじまっていたからだ。玄関から続く廊下を歩いている際、すでにきな臭い雰囲気や何やら鈍い音が響いていたので今日は穏やかでないことはわかっていた。食卓のテーブルに肘をついてぼうっとそれらを眺めている高杉を見つけてその向いに腰掛ければ、ヤツはこちらをちらりとも確認しないのだからますます好い気はしなかった。無礼者め、挨拶もできぬ大人などろくな者ではないとお母さんに教わらなかったのか。ともあれヤツがまともに俺の話を聞くわけもないので、構いはせずに銀時の様子を伺っていた。

土方の傷はたいしたことはないようだった。腕を斬られたようだが軽く包帯が巻いてある程度だし、血が滲み出ている様子もなかった。別段動きに支障があるわけでもないようでほんのかすり傷程度なのだろうとは容易に知れたのだが、銀時はそんなことはどうでもいいようだった。


非常に面白くないことこの上ないのだが、銀時はあの駄犬をそれはもう可愛がっている。


自分たちと同じように懐へ迎入れているものだから、勝手にどこぞで傷をつくってきたのが不快に違いなかった。大事にしているものを傷付けられるのは確かに気分が悪い。俺のエリザベスの美しい白に傷が付くなどとんでもない話だ。だから銀時の苛立ちもわかる。わかるのだがその愛される対象があの男なのだから納得がいかない。痛いのは嫌いだから殴られるのは遠慮したいが、それほどまでに銀時に愛されているのだと思うとこう、胸の中を掻きむしりたくなるような気分に苛まれる。憎らしい。実に不愉快だ。あ、だからああやって痛め付けられてるのが丁度良いのかもしれない、うん。ざまぁみろだ(と、ここで銀時に殴られた)。すりすりと痛むストレートが直撃した頬を撫でれば銀時が今回真撰組とやりあった連中について今すぐ調べろと言う。…いや、待って。もう捕まったのならいまさら調べるもなにもないだろうし大体なぜ俺が?(もちろん口には出さなかった、敬愛する男にそのような口はきけん)
「江戸はテメェの管轄だろうが」とこういう時ばかり話してくる片目の男を忌ま忌ましく思いながらも、これ以上長居すればもう一発喰らいそうだったのでさっさと退散した。



で、今に至る。これが昨夜の話だ。あの後早々に馴染みの屋敷で集会を開いた。優秀で頼もしい同士たちによって情報は簡単に集めることができた。まあ江戸での情報収集など俺にとっては造作もないことだ。捕縛された連中はやはりどの党にも属していないはぐれた連中で、たいして繋がりも持たぬただの浅いゴロツキのような奴らだった。当然といえば当然だ。攘夷浪士の捕物とあればどの党もすぐに連絡が入るだろうし、それを把握せずにいられたのは取るに足らない下っ端連中の話だったからだ。納得と同時に安堵する。これがどこぞの党にでも与していたらば銀時が黙っているはずがない。牽制という名の戦争だ。残念なことに今の銀時は攘夷など頭からさっぱり抜け落ちていて興味などかけらも持ち合わせていないから(それどころか否定的でさえある)、組織の一つや二つ躊躇いもなく潰してしまうだろう。そうなればこちらも一つのグループを纏めている身、非常に宜しくない。銀時は土方に害が及ばなければ幕府などどうなろうが知ったことではないのだろうが、あの男がその直属の組織に身を置いているものだから困ったものだ。下手に事を起こすことはできない。銀時は互いが対立する立場に身を置いていることを承知で仲良くやれというのだ、今回のようなことを起こしてみろ。腫れ上がった頬を思い出して身震いした。恐らく銀時は今回の件で一層忠告してくるはずだ。お前らの遊びも大概にしろよとの御達示を想像してなんとも憂鬱になった。いつになったら国を救うこの本懐、達成できるのだろうか。はあ。昨夜からの苦い回想をしながら麗しのエリザベスと夕暮れの道を歩く。この時間帯、銀時は屋敷に居るだろうか。とにかく今日こそは報告ついでに銀時と飲み明かすぞ。語ることは山のようにある。見慣れた屋敷に明かりが付いているのが見えてほっとした。少なくとも誰か一人はいるようだ。戸口に手をかければ目に入り込んできたブーツに喜び勇み、喜気として足を踏み入れた。浮足立ちながら部屋に入れば先程の気持ちが嘘のように散っていく。

「……おい貴様、なぜその酒を飲んでいる」

どかりとお世辞にも行儀良いとはいえない格好で、相変わらずだらしなくはだけさせた胸元を隠しもせず高杉は酒を煽っていた。テーブルの上には既に空になっている酒瓶がいくらかあり、御通しもあがっていたものだからだいぶ前から飲み始めていたことが知れた。

「ここンちにあるもんは皆のモノだろォ?」
「どの口がそれを言う」

腹立つ…!せっかくの上物をこのような不精に奪われるなどなんてことだ、これでは買い出しに行かねばならないではないか…!あ、そういえば銀時は?これ以上話しても無駄なことは百も承知なのでさっさと通り過ぎようとすると珍しく呼び止められた。

「それ以上先、行かねェほうがいいぞ」
「なに?」

この男に対しての苛立ちはおさまりそうになかったので無視を決め込みたかったが、そうもいかなかった。寝室へと続く廊下からいやに甘ったるい上擦った声が聞こえてきたからである。

「仲直りの最中だぜ」

ニヤリとこちらもいやらしい笑みで返されたものだから、思わず叫び出しそうになった。


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このあといつものようにエリザベスに慰めて貰います。
20091111

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あきゅろす。
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