大人と、学生。
「あ、静雄さん!」
「澪士」

 家人の迎えを待っていた俺は、フと向こうを通ったその人を呼び止める。
 高校の近くを通るなんて、珍しい――彼は自ら避けていた節もあったというのに。
 歩き方からして機嫌は悪くない――むしろいい方――だと思ったので、呼び止めたのだ。

「久しぶりだな。今帰りか?」
「はい!」

 実家に帰るので、父の迎えを待ってるんですよ。
 そう言うと、静雄さんは驚いた後、何だか切なそうな表情を作った。

「――だったら、しばらく会えなくなるんだな」
「……え?」
「あ、」

 それは、俺と会えなくなる事が、寂しいと言っているかの様に聞こえた。
 気のせいかもしれないけれど――聞き直したところで、頬を真っ赤に染めている彼は答えてはくれないだろう。

「今の――?」
「な、何でもない! 何でもないからな!」
「――はい」

 ふふ、と笑った。何て可愛い人なんだろう。
 5つ以上離れた年上の男性に、『可愛い』なんて思うのも失礼かもしれないけれど。

「あ!」

 フと静雄さんから視線を逸らすと、向こうから見覚えのある車が来た。
 俺は静雄さんに礼を言って、走り出そうとする。
 ――が、いきなり、凄い力と勢いで、手首を掴まれた。

「えっ、えっと――あの?」
「あ、その――」

 いつものように、謝る言葉はなくて。
 エンジンの音が近付いてるのに、俺達は見つめ合っていた。

「――ん」

 それは、一瞬の出来事だった。
 全て、俺がまばたきしている間に終わってしまった。
 ――ただ、唇に柔らかいものが触れた。
 俺が感じたのはそれだけで。

「静雄さ――」
「……ッ、もう行けよ、澪士」

 静雄さんはそう言って、俺を突き放すように手を放した。
 同時に踵を返して行ってしまって――でも、耳が真っ赤だったことは絶対に忘れない。

「……また、帰ってきますから」

 誰にともなく呟くように。でもきっと届いただろう。
 どうせ夏休みが終わればまた池袋に帰ってくるのだ。
 池袋に帰ってくれば――必ず、静雄さんに会えるわけで。

「おーい、澪士!」
「あっ、父さん!」

 今気付いたと言うように、俺は車に駆け寄った。



















10-10/7
実家は千葉辺りかなと。

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あきゅろす。
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