愛はしらない
 愛する事はできなくても……
 護ることならできる……
 だったら俺は、一番近い場所で、
 あいつを護るだけだ。

 そう思った。






「静雄、お帰り」
「ただいま」

 また煙草吸ったの、と言うと、あからさまに嫌そうな顔をされた。
 そんな顔をされても……嫌なのはこっちだ……
 煙草は嫌いだと言った筈なのに。

「静雄、苛々しても物には当たらないでよね。俺は叩いてもいいけど」
「そんなの……」
「できないから物に当たるの?」

 ずるいよ、と視線だけで言うと、静雄に目を逸らされる。

「……別に、静雄。俺と一緒に住む義務なんて、ないんだよ?」

 互いが嫌な思いをするなら、別居でも何でもすればいいと思う。
 俺も静雄も、食うのに困ってはいない。
 ――強いて言うなら、俺達は恋人ですらない、のに。

「澪士は、俺と――」
「臨也に言われた事気にしてるんでしょ? 高校の時の」
「!」

 ……図星か。
 20を超えても尚、縛られ続けている静雄は不幸だと思う。

「俺の事、幸せにできないだなんて……」
「何で……知って……」
「……臨也が全部、教えてくれたよ」

 小学校から虐められ続けた俺を、護ると誓った静雄。
 高校の時、静雄が護ってくれたお陰で、俺の周りからは人が引いた。
 ……でも、それは、『幸せ』だった。

「まだ縛られてるの……? 俺はもう、平気だよ。あの時の事を知ってる人は、もう居ないんだから」
「澪士、」

 ――煙草の匂いは、嫌いだ。
 それでも俺は静雄に正面から抱き着き、強く抱きしめる。
 ――失う。失ってしまうから、嫌い。
 煙草の害を知らない筈はないのに、吸い続ける人なんて嫌いだ。

「……静雄は、俺の事、嫌い?」
「は?」
「そんなわけないよね」

 静雄の方は見ない。

「だったらどうして……俺が悲しいと思う事ばかりするの……?」
「澪士……」

 煙草吸うのやめてと言っても、静雄はきっとやめてはくれないだろう。
 だから俺は、『嫌いだ』と言った。
 僅かな希望を載せて。

「――好きだって言ったこと、なかったっけ」

 ずっとずっと昔から、好きだと思っていたのに。
 護られていた高校の頃から言葉にするようにしていたのに、静雄には伝わっていなかったのかもしれない。

「……言った」
「うん」

 伝わらなかった?
 どういう意味か分からなかった?
 焦がれた――俺よりも余程強い人に。
 いつも俺を護ってくれた人に。
 どんな時でも最初に来てくれた人に。

「……好きだよ、静雄」

 人を愛せないなんて思わないでほしい。
 静雄は俺を護ってくれた。
 いつでも傍に居てくれたじゃないか。

「それが、愛するってことだよ」

 分からないなら、教えてあげるよ。
 だから……だから。
 諦めないで、自分の事、嫌いにならないで。

「澪士……」
「……知ってたよ……」

 ずっと好きでいてくれたんだよね。
 俺は身体を離すと、じっと静雄を見上げた。

「ありがとう……静雄」

 静雄の手の大きさと温もりを感じながら俺は触れるだけのキスをする。
 煙草の味は、嫌いだけど……。
 これが静雄とのキスの味なら、受け入れてもいいなって思った。






 愛することは、むずかしい。
 人を傷付けることに比べればよっぽど大変で、
 ……俺は、逃げていたのかもしれない。

 この手で護りたい人ができた。
 そしてその人を、愛することができたならば。

「静雄」

 本当に、名前を呼んでくれる気がする。

「澪士」

 幸せに、なれる気がした。




















10-8/30
1ヶ月&1000HIT記念企画。
愛し方を知らない静雄と、静雄以外愛せない澪士君。

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あきゅろす。
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