黒バス Let’s lesson! [緑高] 「なー、真ちゃん」 「なんなのだよ、邪魔をするな」 放課後の音楽室。 テスト期間なだけあって、音楽部が活動していることはない。 活動していないのは、他の部活も同じで。 音楽部は、暇を持て余していた緑間と高尾、2人の貸切状態となっている。 「それ、誰の曲?」 「ベートーヴェンだ」 「ふーん…よく弾けんね、そんな難しいの」 「昔から習わされていたからな」 楽譜も無しに、淀みなくクラシックを弾く緑間を、近くの座席から引っ張ってきた椅子に座りながら、高尾は質問した。 良い育ちだとは思っていたが、ここまでくると最早プロだ。 「人事を尽くして練習した結果?」 「…そんなところだな」 「…ねぇ、真ちゃん」 再び呼びかけると、丁度曲の終わりだったようで、億劫な様子で緑間が振り向いた。 「なんだ」 「俺にピアノ、教えて?」 …数秒の、間。 これは、了承の間なのか、拒否の間なのか。 そっと顔色を窺いながら、答えを待つ。 「…突然どうした」 「ん?いや、楽しそうに弾いてる真ちゃん見てたら、俺も一緒に弾いてみたくなってさ」 それだけ。たったそれだけの理由だが、高尾にとっては十分すぎる理由だった。 同時に、緑間の心を動かすにも。 「…やるからには、本気でやれ。俺は手を抜かん」 「マジ!?ありがとう真ちゃん!」 その日は、練習日の相談と、指の使い方を教えてもらい、帰宅となった。 数日後。 「真ちゃん真ちゃん!見てみて!俺、“森のくまさん"弾けるようになった!」 「喜び過ぎなのだよ。俺が教えているのだから、これくらい直ぐに弾けるようになってもらわなくてはな」 天性の器用さと集中力のお陰と言おうか、高尾は急速な成長を見せた。 簡単な楽譜を渡せば、次の日には弾けるようになってくる。もちろん両手だ。 こうなってくると、不思議なことに教えるほうも楽しくなり、高尾のために楽譜を選んでいる時間が、練習で疲れた心を癒してくれるようだった。 「なー真ちゃん。真ちゃんの弾いてたベートーヴェンの楽譜、今度貸して?」 「お前にはまだ早い。簡単なものから始めるのだよ」 「えー、俺、2週間でCzerny終わったよ?」 「だからお前は駄目なのだよ。基本が全てだ、まだ貸せん」 ちぇーと言いながら、マスターしたCzernyを滑らかに弾き始める。 器用というか、才能が埋まっていたというか。 (…仕方ない) ばさっと、高尾の前に楽譜を置く。 見たことのない表紙に、ピアノを弾く手を止め、注目する高尾。 「真ちゃん…?」 「…5日だ。5日で94ページから96ページの曲を弾けるようになっていれば、ベートーヴェンを貸してやる」 まさかの条件に、キラキラと目が輝きだし、高尾は楽譜を手に取った。 「マジで!?俺、頑張るな!ありがとう真ちゃん!」 「せいぜい頑張るのだよ」 どうせ弾けるようにはなるまい。 それからの数日は、まともに話しかけられなかった。 授業中、休み時間を問わず楽譜を睨み続ける高尾の集中力は、拍手を贈りたいほどだった。 (まぁ、たまには静かな高尾もいいだろう) ふ、と息をつき、読みかけの本に目を戻した。 そして、約束の5日後。 「真ちゃん!来て!」 STが終わるなり、鞄を抱えて緑間の腕を掴んで、音楽部へと駆けていく。 走って行った先は、普段あまり使われていない方の音楽室。 今日はテストも何もない放課後なので、いつもの音楽室へ行けば、音楽部が活動していることだろう。 教室へ入ると、すぐに鞄を放り出し、ピアノの蓋を開ける。 「真ちゃん、弾いていい?」 「…待て高尾、楽譜はどうした」 「覚えたから大丈夫!」 覚えた?あの楽譜を?5日間で? とても覚えきれる量ではない。緑間自身も、覚えるのには数週間を要した。 「俺、5日ぶりにピアノ触るから、音違ってたりしたら言ってな!」 「5日ぶりだと?」 どういうことだ…練習をしていなかったとでも言うのか? 「行くよー」 すっ、と息を吸ってから動き出す両手。 緑間よりもふた回りほど小さな手が、鍵盤いっぱいに動き回り、音を奏でる。 激しいところは、嵐のように。 優しいところは、太陽のように。 時間にして、約2分。音を外すことなく、高尾は演奏を終えた。 「…どうだった?」 「………」 緑間は無言のまま手を出し…静かに両手を合わせ、叩いた。 「見事な演奏だったのだよ」 「…!ありがと真ちゃん!!!」 立ち上がり、万歳の体勢のまま声を上げる。 「高尾…ピアノを触っていなかったとは、どういうことなのだよ」 「ん?ああ、取り敢えず楽譜覚えようと思って、ずーっと暗記に集中してたってだけだぜ」 とんでもない奴がいたものだ。 常人の考えの遥か上を行く考えに、再び拍手を贈りたくなった。 「約束通り貸してやるが…ちゃんと弾いて覚えろ。いいな?」 「はいよ!仰せのままに!」 さて、ベートーヴェンが終わったら、何を弾いてもらおうか。 何の楽譜を渡そうかと考えながら、緑間は静かに目を閉じた。 おまけ 「真ちゃん、聞いて聞いて!高尾和成流“森のくまさん"!」 「何をふざけたこと…おい、転調するな気持ち悪い!」 「からのー、ハイスピード森のくまさん!」 「3倍速にするな!」 「はなさーくーもーりーのーみーちー!」 「歌うな馬鹿!地味に上手いのがムカつくのだよ!」 チャリア組は今日も平和です。 緑間…風? 2時間で書いたから雑ヽ(^o^)丿 授業中ピアノ弾かないで書いてた馬鹿はこいつです(`・ω・´)← [*前へ] |