黒バス For the future [日月] これは、日向たち2年が進級し、WCが終わった時のお話。 「…俺たちからの話は以上だ。降旗、黒子。 これからの誠凛を頼んだぞ。」 「は、はい!」 「2年間、ありがとうございました。」 …しんと静まり返る体育館。数分前にいた部員は、日向のみを残し、帰路についていた。 足元に転がる、見飽きた球体。 それを拾い上げ、目と鼻の先へ近づける。 (…引退、か。) きゅ、と。 これまでの2年間に想いを馳せようとしたその時、近くで聞こえた靴擦れ音。 顔をボールから離し、そちらへ視線を向けると、青春を共にしたチームメイトの姿。 「よ。」 「伊月か。…なぁ、俺たち、もうここで部活、出来ねぇんだな。」 自分の口から、思ったよりも弱々しい声が出たことに、少なからず驚く。 そんな様子に気付いたであろう伊月は、ふ…と苦笑を浮かべながら、 一歩…また一歩と、日向へ近付く。 「受験勉強の息抜きにでも、また来ればいいだろ? これが最後って訳じゃないさ。」 「まぁな。」 同じく苦笑を浮かべ、体を伊月の方へ向ける。 制服に身を包んだ彼は、コート上よりも凛々しく見え、同い年ということを忘れるほど大人びていた。 「…なぁ、伊月。最後に1on1、やってかね?」 「お、いいね。最初で最後の制服マッチか…」 上着が2着、ステージの上へ放られる。 センターラインに向かい合った彼らの顔は、何かを吹っ切った…そんな表現がぴったりで。 「お先にどーぞ。」 「ん?珍しいな、日向が先譲るなんて。 ほんじゃ、行かせてもらう…よ!」 きゅ…っ、と。 地面を蹴る足音とドリブル音、そして心地よい靴擦れ音がこだまする。 2年間一緒に練習してきたのだから、お互いの手の内はとうに分かっている。 だからこれは、"勝負"などではない。 「…相変わらず、抜く隙がねぇよ伊月…っ」 「鷲の目しか武器がないからな、鍛えたさっ…」 二人だけの空間というのも不思議なもので、時間が経つのを感じない。 このまま何時間でも戦っていられるのではないか… そんな考えも頭に過り始めた時、"異変"が起きた。 「…よし、もらっ…つっ!?」 「伊月!?どうした、おい!」 今にもシュートを決めようとした、その時。 突然シュートフォームを崩し、目を押さえて地面に膝をつく伊月。 駆け寄り、状態を確認しようとするが、強く押さえ付けられている伊月自身の手によって叶わない。 「…っ…あ…い"…っ」 「伊月!おい!」 状態が落ち着くまで待っていよう…そんな考えを振り払わざるを得ない状況に、日向は強行手段へ出る。 「…この時間じゃ先生もいねぇし…そこの病院行くぞ! 「っう…ひゅ、が…」 相変わらず、目を押さえつけて動かない伊月を背負い、バスケ部掛かり付けの診療所へと駆け込んだ。 「失明…とまではいかないが、限りなく近い状況ではある。」 目に包帯を巻き、ベッドに横たわる伊月の横で、担当医から様子を聞く日向。 言い渡された結果は、あまりにも信じがたいものであった。 「…見えなくなる、ということですか?」 「…伊月くんの場合、私生活以外で目を使いすぎた。簡単に言えば、目が過労状態だ。 …暫く、目は使わない。それが1番の回復条件だ。」 「…見えなくなる訳じゃ、ないのか…よかった。」 ほっと息をつき、眠っている伊月の頭を撫でる。 …この目に、自分達は幾度となく助けられてきた。 助けられる度に、この目に負担を掛けていたのだと思うと、申し訳なさで一杯になる。 (伊月…無理させてたんだな。 気づいてやれなくてごめん…主将失格だな。) ──翌日。 「…伊月。」 「おはよう、日向。って、こっちであってる?」 「あぁ。俺はここだよ。」 朝。見えない伊月と登校するために、家まで迎えに行く日向。 痛々しく巻かれた包帯は、目に掛かる負担を無くすためであるが… 「…本当に、ごめんな。」 「…それ以上謝ったら、置いてくよ。これは俺が自分でやったことだから気にすんな。」 本気のトーンに、目を見開く日向。 (…そうだな、こいつは昔から…) 「日向?どこに…」 「…ここだよ。しっかり俺の手、握ってろ。」 ぎゅっ、と。 しっかりと、伊月の手を握り、歩き慣れた道を進んでいく。 「…予想はしていたが…。」 昼休み。 不安がる伊月の手を引いて屋上へやってきた日向。 何故こんなところにやってきたかというと。 「まぁ、クラスの奴等が騒ぐのは分かってたよ。でも登校しないわけにはいかないだろ?」 「…そうだけどよ…ちょっとは考えて欲しいよな。」 ばたばたと入れ違いに、事情を聞かれていていては気が持たない。 昼休みのチャイムが鳴ると同時に、伊月の手を掴んで屋上へ逃げてきた、というのが経緯である。 「…ありがとな、日向。 俺、お前がいてよかったって、本気で思うよ。」 「なっ…んな、恥ずかしいこと言ってんじゃねぇよ…」 くすくすと笑い続ける伊月を背にし、見られないのを分かっていても、 赤くなる頬を隠そうとする。 「ひゅーがぁー。昼御飯、早く食べるぞ。」 「あ、あぁ。」 こんな時間が続けば良い。 そんな思いを心に秘め、日向は向きを正し、伊月と二人きりの昼食を取るのだった。 そんな、平和な高校生活の最後。 「…続いて、3-C…」 誠凛高校卒業式。 記念すべき第一期生である日向たちは、緊張した面持ちで式に臨んでいた。 次々と名前を呼ばれていく、3年間共に学んだ者たち。 中には名前さえ知らない者もおり、新鮮な気持ちも沸き上がる。 「…伊月俊。」 「はい。」 席を立ち、登壇していく伊月。 その顔には、元の優等生らしい顔立ちにプラスして、黒渕の眼鏡。 結論から言うと、伊月の視力は回復した。 最初に診療所へ一ヶ月後には、包帯を外した元の生活へと戻っていた。 しかし、完全に…というわけにはいかなかった。 鷲の目は関係なく、視力Aをキープし続けていた伊月だが、 後遺症として、視力はDに落ちていた。 もちろん眼鏡が必要になるわけで、今ではすっかり様になっている。 ちなみに、失明していた期間は受験勉強が全くできなかったにも拘らず、 見事、難関国公立大学へと進学を決め、バスケ部員を驚かせた。 視力以外に失ったものが、もうひとつある。 それは… 「卒業おめでとう、伊月。」 「おめでとう、日向。…ははっ、花が似合わないな(笑)」 「うるせぇよ(怒)」 桜の木の下、集合の約束をしたバスケ部は、それぞれ祝いの言葉を口にした。 これだけのメンバーが集まれば、する話は1つしかなく。 「水戸部は料理学校かー…じゃあバスケは続けらんないねぇ。」 「…(コクリ)。」 「日向は歴学部だっけ?」 小金井と水戸部の会話(?)を聞きながら、木吉が分かりきったことをさも分からないかのように聞いてくる。 「そーだよ。お前は医学部だっけ?」 「おっ、よく覚えてんなー!流石日向! バスケ続けるんだろ?また会おうな!」 肩を、ぽんぽんという表現以上の力で叩いてくる木吉。 こいつが医学部で大丈夫なのだろうか… 「日向、木吉。お前たちの活躍、応援してるからな!」 「おう!伊月も勉強頑張れよ!」 伊月の言葉に、満面の笑みで返す木吉。 その光景を側で見ていた日向。 側にいたからこそ、わかってしまった。 (…伊月、バスケしたいだろうな。) 一時的失明の理由が"鷲の目"と分かっている以上、バスケを続けることはできない。 自身の能力が使えなくなったわけではないので、自然に発動し、今度こそ失明する可能性があるからである。 その理由から、すでにスポーツ推薦を受けていた有名大学への入学を辞退することにもなった。 「…伊月。」 「ん?どうしたよ、主将?」 だから。 お前の分まで… 「お前の分まで頑張るから、応援してくれるか?」 「…やーだ。」 え? ぷいっと横を向きながら放たれた言葉に、瞬間的に固まる。 予想外の答えすぎて、思考が停止して… 「『してくれるか?』なんて、俺らの主将は言わないよ。 俺たちの主将は、いつも引っ張ってってくれたよ?」 「…変わらねぇな、お前は(笑)」 そうだな、俺らしくもない。 高校最後の日…最後の最後までお前たちの主将でいるために、俺は… 「お前の分まで頑張る。だから、応援しろよ!」 「…それでこそ主将だよ、日向。」 綻ぶ表情は、背景の桜と似合いすぎていて… 不覚にも、綺麗…なんて思ってしまった。 俺はお前の分まで頑張るから。 お前は俺の分まで… 初☆日月! ずっと書きたいと思って書けてなかった! やっと書けたけど終わり方が微妙(>_<) [*前へ][次へ#] |