黒バス Happy Valentine! [黄黒・緑高・青火] ──バレンタインデーとは。 毎年2月14日に女性が、好意のある、又はお世話になっている異性、又は同性に、チョコレートを代表とするプレゼントを渡す日である。 そんなバレンタインデーの3日前… 「さーて…どうしようかテッちゃん?」 「とりあえず街に出てきたのはいいですが…女性が多いですね。」 世間の流行に乗るように、チョコを買いに来た高尾と黒子。 街は勿論女性が多く、居心地の悪さを感じながらも、人の少ないところを選んで歩いていた。 「高尾くんはどんなチョコにするんですか」 「俺?俺はねー…真ちゃん、派手なやつだと受け取ってくんねーかもしれないから、シンプルめのやつ。テッちゃんは?」 「僕は派手でも大丈夫ですが、甘さ控えめなものを。モデルの仕事関係で、甘いものは沢山貰うそうですから。」 想い人についての話をしながら歩く道は、いつもより楽しく感じられた。そう感じたのもつかの間、目の前に大人っぽい洋菓子店が表れた。 「チョコは…うん、売ってる売ってる!行こうテッちゃん! 」 「はい。」 迷いのない足取りで歩いていく2人だが、周りの女性たちに不審がられることはない。 いや、普通なら驚かれてもおかしくないのだが、黒子は生来の影の薄さを、高尾は鷹の目を利用して、人の死角を歩くようにしていた。 つまり、人には見られたくなかったのである。 「…どう、テッちゃん?」 「…ここはOLさん向けの、友チョコ専門店のようです。ほら、あそこ。」 黒子が指を指したのは、とある看板。そこには、【各種友チョコ、礼チョコ揃えてます】の文字。 「…あちゃ〜、入るとこ間違えたか。次行こう。」 「そうですね、時間が沢山あるわけではないですし…」 入ったときと同じように、人に極力気づかれないよう店を出る。黒子の影の薄さと高尾の鷹の目、合わせれば出来ないことなどないのではないかと思うほど、滑らかな動きである。 「うーん、なんか良いのないかなー…。トリュフとかがいいんだけど。」 「…高尾くん、あそこはどうでしょう?」 遠慮がちに声を掛け、指し示したのは、これまた大人らしい店。先ほどの店ほどではないが、女性で溢れかえっていた。 ここも先ほどのようにして店内を物色すると、目当てのものが見つかった。 「テッちゃん、俺これにする!」 「3色のトリュフですか、可愛らしいですね。」 「っしょ?レジ行ってくるな!」 「買えましたか…あれ?」 「お待たせテッちゃん。ラッピングしてもらったら、ちょっと時間かかっちゃって…」 「いえ。それよりそのリボン…」 高尾の持つ袋の中の箱には、先ほどまではなかった緑色のリボンがきれいに巻かれていた。 指摘された高尾は満更でもないようで、仄かに顔を赤らめて笑う。 「リボンの色、聞かれてさ。緑ありますかーって言ったらなくてさ。がっかりしてたら、レジの人の私物くれたっけ。」 「よかったですね。」 「ん!…じゃあ、テッちゃんのを買いに行こうか! 」 僕のじゃないんですけどね、という呟きは、スキップで歩き出した高尾の鼻唄に掻き消されてしまった。 よほど嬉しかったのだろう。しかし、そのまま黒子を置いていくわけにはいかず、途中で静止する。 「テーッちゃーん!」 「待ってください、高尾くん。」 …緑間くんは、本当に幸福者ですね。 口に出すことはなく、目で高尾に話しかけてみる。すると、伝わったかのようににかっと笑い返された。 「…あ。」 「どしたん?…お、可愛い店だなー、行ってみるか。」 「はい。」 歩くこと5分、今度は少し派手めで高級そうな洋菓子屋についた。 例のごとくの方法でチョコを探すと、探し求めていたものと、寸部も違うところのないものが見つかった。 「高尾くん、見つかりました、買ってきます。」 「マジ?…って、高いな、それ…。」 「そうですか?予算内ですが。」 きょとんとしてレジへ向かう黒子。そんな彼を見送って、自分は店内から出ようとすると。 「高尾くん高尾くん!」 「ん?」 店の外。思い通りの買い物を終えた黒子は、高尾と共に店の前へと戻ってきていた。 「ありがとうございました、お陰で買えました。」 「いーっていーって!店員さんに気づかれないのは切ないもんなー(汗)」 レジへ並んでも、次々と並びを抜かされる黒子は、困った挙げ句なや高尾にレジを頼んだ。その時、ラッピングのリボンの色を聞かれたのだが。 「最初、黒って言うんだもん、店員さんびっくりしてたよ(笑)」 「…つい。でも、ちゃんと黄色を巻いてもらいました。」 胸の位置まで箱を抱えてくる黒子。可愛らしいその仕草は、彼の前ではどう変わるのだろうか。 「…おっと、もうこんな時間か。そろそろ部活行かなきゃだわ。」 「僕もです、付き合ってくれてありがとうございました。」 「俺もチョコ買えたし、こっちこそありがと!渡した反応聞かせてよー(笑)」 そう言って、二人は愛しい人のいる学校へと走っていった。 ─黒子side─ 「じゃあ火神くん、また明日。」 「おう。マジバ寄って帰んのか?」 先に着替えを済ませた黒子は、上着を手に取った火神の方を向き、否定の言葉を返す。 「いえ、黄瀬くんを待たせてしまっているので。」 少しはにかみながら言うと、その言葉だけで全てを察した火神は、黒子の頭を鷲掴み、応援の言葉をかける。 まるで自分のことのように喜びながら。 「そっか、頑張れよ!」 「火神くんも。しっかり渡してきてくださいね?」 「わ、わかってる…!」 「黄瀬くん!」 寒空の下、公園のベンチに座って携帯を弄っていた黄瀬ははっと顔をあげ、直ぐに人懐こい笑みを浮かべて立ち上がった。 「遅くなっ、て…すみませ…っ…」 「走ってこなくてよかったのに…落ち着いて黒子っち、深呼吸っスよ!」 ゆっくりとベンチへ案内され、先ほど黄瀬が座っていたところへと腰を下ろす。そこだけは暖まっており、意外なところからも彼の体温を感じることができた。 「…すみません、黄瀬くん。落ち着きました。」 「よかったー…っと、ところで黒子っち、急に呼び出してどうしたんスか?」 きょとん、と。何も知らない彼は、純粋にわからないという目を向けてくる。 渡しやすい…ことには違いないが、この手のイベント事を忘れていることは、黒子にとって予想外であった。 「…バレンタイン、なので、一応…どうぞ。」 「黒子っち…知ってたんスか!?」 おずおずと差し出したものは、これまた予想外の言葉と交換に受け取られた。 いくらイベント事に興味の薄い黒子でも、周りの女子たちが騒ぎ始めればバレンタインくらいわかる。 その上で準備してきた黒子には、黄瀬の言葉は残酷すぎた。 「…すみませんね、普段からイベントをスルーしてて。」 「な、何で怒ってるんスか!? …ありがとう黒子っち。大切にするよ。」 「いや、食べてくださいね、食品なので。」 怒りも一瞬で冷めるような笑顔を浮かべられ、そして天然発言につっこむことになった。 全くいつも通りのパターンで、イベントと掛け離れているのは言うまでもなかった。 「ありがとう黒子っち、大好きっス!」 「わ…」 突然抱き締められ、不意に声が漏れる。犬のようなじゃれつきではなく、大切なものを包み込むような暖かさに、解されそうなる…が。 「黒っ…ぐはっ」 「公共の場では止めてくださいと言ったはず。…寒いですし、早く帰りましょう。」 「はいッス!じゃあ日曜日に!」 そう言い残して走り去っていく彼の顔には、 きらきらとした笑顔が表れていた。それを作り出したのが自分だと思うと、なんだかむず痒い気持ちになる。 「…よかった。そういえば、高尾くんは大丈夫でしょうか?」 自分よりもコミュニケーション能力の高い彼のことだ、成功しているに違いない。 そう思い、来たとき以上の心の暖かさを感じながら、帰路へつくのだった。 ─高尾side─ 「真ちゃん!お疲れー。」 いつものように、一人黙々とシュート練習を続けていた緑間を部室でまっていた。 汗だくで戻ってきた彼にタオルを渡し、ベンチの横を空けてやる。 「…ねぇ真ちゃん。今日のおは朝、何て結果だった? 」 「…蟹座は3位だ。 今日はいつも通りの日常の中に、一際喜ばしいことがあるだろう。だがそれに対する反応を悪くすると、これからのことに影響するだろう。 ラッキーアイテムは四角い箱なのだよ。」 手を動かしながら、淡々と結果を述べる緑間。その返答を待っていたかのように、後ろ手に隠してあったものを、彼の目前へと差し出す。 「…これは?」 「見てわかるっしょ?遅くなったけど、今日のラッキーアイテム。"箱"がいるんでしょ?」 そっぽを向きながら話す高尾をじっと見つめる緑間。 その視線に耐えきれなくなってきた頃、ふと呟かれた言葉に反応した。 「…ラッキーアイテムは、既に持っているのだよ。」 制服の下から、目薬の箱のようなものが出てきた。既に持っているであろうと思っていたが、それでも受け取ってくれると信じていた。 まさか、受け取ってもらうことは出来ないのだろうか? 「…真ちゃ…」 「だが、これの役目もここまでだな。」 そう呟くと、右手で持っていた小さな箱を握りつぶし、部室の隅に置かれているゴミ箱へと投げ込んだ。 「…高尾、俺は今、今日のラッキーアイテムを"間違えて"捨ててしまった。代わりになるものは持っていないか?」 …まったく。 素直じゃないエース様だ。いや、俺もか。 チョコの箱を持ったまま、緑間の元へと飛び込む。 「真ちゃん大好き!俺が真ちゃんのラッキーアイテムになる!」 「な、何なのだよ!離れろ! …それに、お前は"今日"のラッキーアイテムで満足なのか?」 眼鏡をくいっと直しながら、いつも通りの無表情で放たれた言葉。 それに感動して箱を落としかけるが、気にせずに抱き締め続ける。 「ハッピーバレンタイン!これは今日のラッキーアイテム。で、俺が一生のラッキーアイテムだからな!」 「…どちらもありがたく頂くのだよ。」 抱き締めるのを緩めると、必然的に目が合う状況になった。緑間は軽くしゃがみ、高尾は少し背伸びをして。 どちらともなく、触れるだけの口付けをすると、幸せな笑みを浮かべて笑い合うのだった。 Happy Valentine〜恋人たちに甘い1日を〜 おまけ─火神side─ 「はっ…はぁ…ちわー!青峰います?」 突然自分達の体育館に現れた火神に、驚きを隠せない桐皇のメンバー。一際早く状況を理解した今吉が、火神の元へやってくる。 「いらっしゃい、火神。青峰なら珍しくおるで。…青峰ー!」 体育館の奥の方へ呼び掛けると、ばたばたと足音を鳴らしながら、チョコのような肌の色をした少年が走ってきた。 「火神…!?てめぇ、なんでこんなとこに…」 「今吉サン、青峰借りてくぜです!」 「おー、持ってきー。」 軽いノリで返された返事を背に受け、青峰の手をつかみ走り出す。 丁度体育館の裏へ来た辺りで止まると、手を離さないまま声を掛けられる。 「なんだよ火神、突然来やがって…1on1してぇのか? 」 「してぇことには違いねぇけど…。 今日、バレンタインだろ?黒子に、日本は好きなやつにチョコ贈るって聞いたから…これ。」 すっと差し出された、ラッピング済みの袋。青のリボンで閉められているそれは、手作りという言葉がぴったりくるようで。 「…作ったのか?」 「…まぁ、時間あったから…不味かったら捨ててくれて構わねぇから。渡したくて来ただけだから、じゃ!」 手を離し、背を向けて走り出そうとすると、再び腕を捕まれ、静止させられる、 「待てよ。」 リボンをほどき、中に入っていた沢山のトリュフや生チョコの中から1つを手に取ると、迷わず口に放り込む。 数回咀嚼して飲み込むと、再び火神の方を向き。 「うまい。」 「…よかった。形作る前に味見したんだけど不安でさ…」 「ほら、口開けろ。」 チョコの1つを放り込まれるかと思い、指示通り口を開けると、チョコではなく、何故か青峰の顔が近づいてきた。 「な…んっ!?」 口付けを交わすことによって移る、カカオの香りと味。それが消える頃、やっとお互いの顔が離れた。 「美味いだろ?お前の作ったもんならなんでも美味いんだよ。」 「…っ…あ、りがとな…」 真っ赤になった顔を見られないようにして、静かに俯く。すると、見慣れた手が頬をなぞるようにして触れてくるのを感じ、おずおずと顔を上げる。 「…バレンタインの締めは、火神、お前で間違ってないよな? 」 「…っ!…スーパー、寄ってっていいか?」 「おー。明日は学校行けねーと思えよ?」 「そこは手加減しろよ! 」 ははは、といたずらが成功した子供のような笑みを浮かべながら抱き締めてくる青峰。 渡してよかったと、本当に思う。 (あー、本当…俺、こいつのこと好きなんだなぁ…。) わかってはいても、何度も感じたい想い。 そんな想いをすることの出来た今日という日に感謝しながら、そっと目を閉じた。 バレンタインいえあ! 私は今年、クランキーチョコを作って配りました。 皆さんはどんなバレンタインを過ごしたのでしょうか…? 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