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過去拍手文














 目の前の人が、一体誰なのか、分からない。




 どう見てもフェアだ。
 でも、考えれば考えるほど、フェアとは思えない。


「君は、誰なんだ」

「……? 何言って…」

「フェアはそんなことは言わない。少なくとも、おいらの知ってるフェアは、おいらたちを信じてくれているから」


 きっと傍にいてくれるはずだから。
 分かってくれているはずだから。


「だから、間違ったところへ進み続けてるギアンに、そのことを分かってもらおうとするはずだ。ギアンの傍からじゃなく、相対する形で」

「それは君の単なる思い込みかも知れないよ」



 茂みから男の声がした。
 気配は今まで全くなかった。

 暗殺者は倒されたとは思うが、まだ仲間がいつ出てくるか分からない状況だ。周囲に気を配ることは忘れていなかったはず。
 心臓が不規則に脈打つのを感じながら、アルバはその方を見やった。


「君は僕じゃないし、彼女でもない。
赤の他人が、人のことを知った風に語るのは、どうだろうね」

「──出て来い」

「彼女は現に、僕のところへ来たいと言っているじゃないか。
彼女には自由に意思決定をする権利がある。そして、その意思は自分の判断によってなされたものであるし、それを行動に移す権利も存在する。
君がフェアの決めたことを、とやかく言う資格はないはずだろう…?」

「出て来い…ッ!」

「……やれやれ、随分短気だな」



 光の下にその姿が露になった時、本当に目の前が暗くなった。
 その紅い髪には見覚えがある、なんて生易しい言葉を使うこともできない。





 ついさっきまで、確かに見たのだ。

 そして、今は仲間が足止めをしてくれているはずの、





「その表情は……“何故ここに、『僕』がいるのか”と訊きたいみたいだね?」

 くつくつと哂うその声に、足の先まで血の気が引いて冷たさを感じていた自分の身体に、一気に熱が蘇る。


 紅い髪が揺れて、男はフェアを後ろから抱きすくめた。



「あんたがそこにいるはずはない。少なくとも、こんなに早くここに来れるはずがない。
セイロンたちが、『任せろ』と言ってくれたから」

「………」

「あんたは、ギアンの姿をしてるけど、違う。
何者だ。フェアからすぐに離れろ!」

「ずいぶんと仲間を信頼しているんだな。その信頼に足る力量を彼らが持っていたかは話が別のようだが……」

「何…!」

「じゃあ“ギアン”じゃなかったら、誰だと?」

「別に何だっていいさ。おいらはあんたが誰だろうと、問題じゃないんだ。
でも……」


 剣の刃を返す音が、かすかに響く。


「フェアだけは、返してもらう!」


 言い終わるが早いか、アルバは水平に飛んだ。ギアン目掛けて一足飛びに飛び掛る。
 しかし、ギアンは避けようとも、防ごうともしない。

 その行動を不審に思ったその瞬間、鋭利な殺気が肌を突き刺す。

 咄嗟に地面に手をついて、無理に斜め後ろに跳躍の方向を変える。

 上空から鋭く空を切る音と共に、何かが降ってきて。
 鈍い音を立てて、地に深々と突き刺さった。
 それに貫かれた焦げ茶の髪がはらりと数本宙を舞って、地に落ちる。
 上手く受身を取れずに、アルバは転がるように尻餅をついた。



 ギアンとアルバを分かつかのように放たれた一本の矢。
 それが放たれた先を見上げる。


「そこまでにしてもらおうか」

「……クラウレ…!」

「健気な仲間愛だ。だが……現実を見ることができないらしいな。
自分の身で知らなければ、どうにも判らないというのなら、その身で味わうがいい。
絶対的な、力の差があるのだということを!」









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