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ディストーション(八田美咲)

無意識に振り向くそこに、最近新しい奴が座るようになった。






ディストーション








つい先日藤島が拾って来たそいつは、金髪碧眼で傷だらけだった。
大したもん食ってねぇんだなって見れば分かるくらいの痩せた身体に、痛々しい傷痕。

それでも俺に対してだけは英語で生意気な口をきく。…たぶん。
何言ってるか分んねーけど悪意を感じるからきっとそうなんだろう。

そいつが、妙に俺の視界に入ってくることに最近気付いた。

でもそいつはソファの定位置からはあんま動かねぇ。
ただじっと、膝を抱えてずっとぼーっとしてるだけだ。

いつまでも座敷わらしみてーに居座りやがって!なんて怒鳴った事もあったけど、まぁそれくらい動かねぇってことだ。

…つまり、俺の視線があいつにいっちまってるんだろう。

いや、それは正しくない。

視線が追うのはあの金髪じゃなくて、金髪が来るずっと前にそこを定位置としていた奴だ。

ソファの端。
誰にも話しかけられないように機嫌の悪いオーラを纏って、いつも端末を弄ってた。
俺が他の奴と楽しげに話しているとそこから舌打ちが聞こえてきて、鬱陶しそうな、それでも構えと訴え掛けてくるような瞳があいつの眼鏡越しに見えていた。

当時の俺はそれに気付いても、ただただ鬱陶しいだけだったけど。
機嫌が悪いなら帰ればいいじゃないかと。いつまでも子供じゃないんだから、邪魔するんじゃねぇと。

そう思い続けたせいだろうか。

あいつの足はどんどんここから遠ざかって行って。

そして、ここにはもういない。

舌打ちも聞こえない。
あいつが座っていた場所には、違う奴がいる。

もういないのに、視線で確認してしまう。
エリックを見る度、それを自覚する。


ぎぃぃ、と重い出入口が音を立てて、HOMRAに来客が来たことを知らせる。

それはエリックを拾って来た藤島で、藤島は俺たちに挨拶をすると店の隅でぼーっとしてるエリックを見つけすぐに近付いて行った。

「エリック、おはよう」
「……うん」
「足、行儀悪いぞ。ソファから下ろしとけ」
「………」

エリックが小さな声で挨拶を返すようになったのは藤島の努力だ(まぁ返す相手と返さない相手がいるんだけど)。
続けて言われた言葉には一瞬反抗しそうになってたけど、藤島に目で諌められて渋々足を床に下ろしていた。

膝を抱えて座るエリックには、きっと俺たちには言えない何かがあるんだろう。

でも別に言わなくてもいい。
エリックが敵なら潰すだけだし、そうじゃないなら放っておけばいい。

それを解決するのはきっと俺じゃないだろうし。

…そういえば、藤島はあいつにはなんにも言わなかったなぁと思い出す。

あれは、俺が解決すべきことだったんだろうな。

それを放っておいたから、あいつはもうここにいないのかな。

…なんて。

自惚れんじゃねぇよ、ってバカにしたような顔で言われるのがオチだな。







20130122
エリックと猿って人に絡まれない隅の方とか、似た場所に居そうと思ったので。
あと八田さんはこんな頭良さそうな言葉使わないと思うのでごめんなさい


あきゅろす。
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