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01


辺りはしんと静まり返った平野。

そこにある男が姿を隠すように居た。

ピンと立った蜂蜜色の耳。鋭い眼光。
彼が狙うモノは…
トゥスクルにあった。







「やっと辿り着いた…」

男は安堵の息を吐いた。それには訳があり、ここに着くまでに色んな事があったのだ。

「もうカトゥマウは追いかけて来ていないだろうな…」

男はちらりと後ろを窺う。
この男の名は、デリホウライ。かのカルラゥアツゥレイの皇だ。

何故彼がこんな所にいるのかと言うと、理由は至極簡単。

愛しい姉上様に逢うため。

デリホウライとしては、姉上様の居場所が分かっている以上、毎日でも会いに行きたいくらいなのだが、それは教育係(仮)のカトゥマウが許さなかった。

政務が、建ったばかりのカルラゥアツゥレイにはまだまだあるというのも理由のひとつ。

それに皇が頻繁に國を空けてはならない。

それはデリホウライにもよく分かる話なのだが。

会いたいものは会いたい。

そんな己の欲求だけで、デリホウライは今この場にいるのだ。

しかし一応彼なりの配慮なのか、出掛けるのは己一人、しかも夜という時間帯。

姉上様に対しても、顔を見たら帰るつもりなのだ。

しかし、夜中にいきなり皇が一人で居なくなるという事が、今カルラゥアツゥレイで静かに騒ぎになっている事は、この時の彼は知る由もない。



「一度来た事があるし、正面からの侵入はいろいろと質問されそうで面倒だな。他に入れそうな場所を探すか」

暗殺者か何かですか貴方は。

デリホウライはボソボソと一人言を言いながら、トゥスクルの城の周りを闇雲に歩いてみた。

すると。

「お、ここから入れそうだな」

デリホウライは奇跡的に丁度たまたま人の入れるくらいの穴を見つけた。

嬉々としてそこに入ってゆくデリホウライ。

危機感皆無ですか。

しかし。

ゴンッッ!!
「あでっ」
「ぐえっ」

何かがデリホウライの額にぶつかってきた。

デリホウライは涙目で額を押さえながら、そのぶつかったモノに目をやる。

…そこには…。




「誰だお前は」

いきなり現れた男にそう言われたデリホウライ。…当たり前である。

しかし常識皆無なデリホウライには通じる筈もなく。

「貴様こそ誰だ。ここで何をしている」

…質問をさらに倍にして返した。

それには男も驚いたようで、少し身じろいでからさらに眼光を強めた。

「俺の名はオボロ。ここにいる理由は…まぁいろいろとあってな」
「オボロ?」

オボロと名乗った男は、少しばつが悪そうに答えた。

しかし、知らない奴に名をいきなり名乗るなんて、なんて無防備な奴なんだろう。

しかしデリホウライの方はそれを当然と思っているのか、オボロ、というどこかで聞いた事のある名に疑問を持った。

「オボロ?オボロと行ったら…トゥスクルの歩兵衆隊長か何かだったか?」
「お!俺の名もそこまで大きくなったか」
「…たまたま知っていただけだが?」

嬉しそうにするオボロに爆弾投下。

しかしデリホウライに一切悪気はない。
…質が悪い。

先程よりも幾分眉間を険しくしながら、オボロは口を開いた。

「お前の、名は」
「、」

デリホウライは一瞬だけ言葉に詰まった。

どうしよう、ここで本名を言ってもいいんだろうか。
後々面倒な事にならないだろうか。

暫しの思案の後、デリホウライは結論を出した。

「俺の名は、デリ。デリだ」

あだ名ならいいだろう、と。

馬鹿みたいな結論だが、ここにそれを指摘する者はいない。

「デリ?…なんか聞いた事あるような名前だな」
「気のせいだ。」

オボロの疑問には、すぐさまデリホウライが否定した。

オボロも不思議に思いながら、思い出せないので大した事ではないだろうとたかをくくった。

「…で、貴様は何故此処にいるのだ?」

オボロが聞いた。

デリホウライは考えた。
オブラートに包めば大丈夫だろう、と。

いつの間にか二人の間に言いしれない空気が漂っていた。

まるで友達同士のような。

「それ、は」
「「若様あぁーーーっ!!!!」」

デリホウライが口を開いた瞬間、城の方から二重の音声が聞こえて来た。

途端にオボロの身体がビクリと揺れた。


と、デリホウライが何か口に出す前にオボロがあからさまな声をあげた。

「おおっとぉっ!!俺は用を思い出した!!これで失礼する!!」
「は?」

オボロの慌てぶりと、段々近くなる二重音声に、これから逃げているのだな、とデリホウライは本能的に察知した。

オボロは不可抗力だとしても、此処でオボロ以外に見つかったら、バレてしまう可能性があるかもしれない。

デリホウライはその予感に身をぶるりと震わせて、今日の所は早々に引き上げる事にしたのだった。










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