ホントはね、 「ベナウィ聞いてくれ!さっき兄者…が…」 勢いよく開けた扉と、同じく勢いよく入り込んだ身体が、頭が中の状況を把握する毎にゆっくりとした動作になる。 オボロが身体を完全に止めた時、丁度後ろで扉が閉じた音がした。 †ホントはね、† オボロがベナウィの私室に入った時、ベナウィは本を読んでいた。 それをきちんと視認したオボロは、溜め息を吐いて弛い動きでベナウィの座す前へと座った。 ベナウィは、普段はそうでもないが、何かに没頭し過ぎると途端に外界と自分を遮断する。 いくら話しかけても、何をしても、一切気がつかないのだ。 なのでオボロも、ベナウィがそうなっていると判断したらムダな足掻きはやめてベナウィが覚醒するのを待つ。 だって、オボロが足荒く扉を乱暴に開けてベナウィの小言がとんでこないなんてありえない。 仕事中はそうならないように細心の注意を払う、と前に言っていた。 敵前では戦いで集中はするが他の事にも頭は残しておくだとか。 特に兄者と政務をする時は兄者を逃がさないためにいつも監視をすることを忘れないだとか。 しかし何かに没頭したからといって、それが隙にならない所がベナウィのベナウィである所以というか。 憎たらしい所である。 オボロは口元を引きつらせた。 そしてチロリと。 ベナウィを覗き見る。 しかし依然変わらず、ベナウィの視線は文字を追うことを止めない。 (気が付かないかなぁ) (気が付かないよなぁ) この前も、ベナウィが本に没頭した事があって。 クロウが必死で話しかけてたっけ。 だけど全然ダメで。 ハクオロも加わって、あの手この手でやっとベナウィを覚醒させたんだった。 あの時は危うくベナウィに本閲覧禁止令が出かけたんだ。 だけどすっかりベナウィの口八丁というか、後ろから出る威圧感というかで、ハクオロ達は丸め込まれていた。 (寧ろ兄者たちが追い詰められたりして) くく、とオボロは笑った。 「何か良いことがあったんですか?オボロ」 ぱたん、と、時間が止まったのを感じた。 あまりに自然に話しかけられて、聞き逃す所だった。 オボロは弾かれたように顔を上げた。 目前には、ベナウィ。 ベナウィが、笑って、オボロを見ている。 見れば、本はまだ残っているのに。 オボロは目を見開いて、それから 花が咲いたように、微笑んだ。 2007/12/31 題名の続きは"気付いて欲しい"です [→] |