01 それは秋の足音が聞こえ始めていた頃。 日が落ちるのが早くなり、上着がなければ少し肌寒さを感じる季節。 野球部も引退し、受験に専念して、学校に残る理由が部活でなく勉強となったある日、俺はいつもより少し遅くなった帰り道を、山藤と共に歩いていた。 「どうだ十堂、調子のほうは」 「うん、まぁまぁかねぇ。特に不便を感じる事ない、しっ――」 曲がり角で突然現れた人影に、反応の遅れた俺は見事にぶつかってよろけてしまった。 ――転ぶ! と思って咄嗟に目を瞑るも、中々その衝撃がなく、瞳を開くと、そこには至近距離に見知らぬ人の顔が。 「…っと、すまない、急いでいたんだ」 「え、あ」 見るとその人に支えられ、どうやら俺は難を逃れたようだった。 そのままその人は俺に何回も謝罪をして、そのまま行ってしまった。 「いやービックリしたなぁ。気をつけないとダメだな、十――」 「今の人」 「ん?」 山藤が困ったように言うのを遮る。俺の目線は、あの人が走って行った方向そのままだ。 「…どっかで見た気が」 「あぁ、福徳の土屋じゃないか?試合をよく観に行ったからなぁ」 「福徳の土屋?」 「あぁ多分な、…って十堂?その顔――」 「え?」 言われて頬に手を充てれば、……熱い。 きっと俺は今顔が真っ赤なんだろうな。 「…どうしよう山藤」 「ん?」 「俺、恋しちゃったかも」 「……は?」 だって、だってだってだって。 「この胸の高鳴りは絶対に恋だって!」 「いや、それは今転びそうになったからじゃねぇの?」 「それに、今の…土屋、の事想うと、胸の辺りがモヤモヤするし」 「それは思い出しそうで思い出せなかった悔しさからじゃね?」 それに、身体がこんなに火照って! しかもしかも、アイツ、少女漫画の王道…っ! 「パンくわえて、急いでたしっ…!」 「はっ!?」 「朝でもないし転校生でもないけど、きっとこれが恋の始まりなんだって…!」 俺は両手を両頬に充てて歓喜した。 だってそう、 きっとこれが運命の出会い! (間違いないって!) (とにかく落ち着け十堂!とりあえず、アイツとお前は男同士だから!) (え?だから?) (………(絶句)) 20100910 [*前へ][次へ#] |