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夏休みもおわって体育祭の季節がやってきた。
運動オンチなあたしにとっては、どうしても避けたい行事だったけど、気づけばすでに当日の朝。
ここ最近雨続きだったのが、見事に晴れてしまうから不思議だ。

鏡の前で普段はおろしている長い髪を一つに結いながら、ふと思った。この小さな変化に彼は気づいてくれるだろうか。
体育祭には乗り気じゃないけど、違う意味でどこか張り切っている自分がいる。




「よし、円陣組もーぜ!」

いまだ衰えることなく照りつける太陽の下で光の掛け声が響いた。クラス全員が一斉に集まり、肩を組む。

「あ、ここ入れて!」

後ろから声が聞こえたかと思うと、あたしと委員長の間が空いた。

「馨、遅いぞ」
「ごめんごめん」

こんなラッキーなことがあっていいのか。あろうことか、あたしの隣に飛び込んできたのは彼。
さっきまで委員長の肩を掴んでいたあたしの右手は不自然に宙を彷徨っている。
そのうえ、左肩には彼の大きな手があるものだから、どうもそこばかり意識が集中してしまう。
横を向けば思いきり近くに彼の顔があるなんて考えられない。

「じゃみんな揃ったネ」
「うん」
「絶対優勝するぞー!」
「オー!」

その声とともにばらばらとみんなが散っていった中で、あたしだけが一人そのまま突っ立っていた。
友達の「先行っちゃうよ」と言う声も、あちこちから聞こえる応援の声も、すべて片方の耳から反対の耳へ通り抜けていった。
だけど彼の声だけはきちんと脳へ届いていた。

「ほっそいなー」
「えっ?」
「いや、肩とか華奢すぎてびっくり。ちゃんと食べてる?」

のぞき込むようにこちらを見る彼の顔があまりにきれいで心臓が跳ね返った。
なんだか顔が熱い。というかもう体全体が熱い。

「あ」
「今度は何?」
「今日いつもと髪型違うネ」
「え…」
「可愛いじゃん」

小さな変化に気づいてほしい。そんなささやかな願望も彼は必ず叶えてくれる。
やっぱりあたしの幸せは、この人だけが知っているんだ。



あたしの世界は君中心




080902




あきゅろす。
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