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好きな食べ物とかお気に入りの曲とか趣味は何だとか、そんなことを質問するのはたいがい相手のすることで、僕のほうからなんて滅多にしないはずだった。だけどあいつが相手になると僕の調子は狂いっぱなしだった。僕ばかりが質問して、その上あいつは何も訊いてこない。だからムカつく。なんだよそれってふてくされる。僕が言いたいのは、何でもいいからもっと僕に興味持てよってことだ。

「光ってそこまであの子に自分のこと知ってほしいんだね」

僕の中に溜まっていた不満を吐き出すと馨に言われた。知ってほしいって何が、あいつに?別に僕は興味ないよ。
ふーんって言う馨は、まるで「じゃあそうゆうことにしといてあげるよ」って顔でなんだかまたムカついた。
最近ほんとにイライラしてばっかりだ。カルシウム足りてないのかな。




「あ、光君」

声が聞こえた瞬間、射ぬかれたみたいに心臓がドクンと鳴った。振り向くとあいつがいた。

「めずらしいもの飲んでるね」

僕が持っていた紙パックを指してあいつは微笑んだ。部活前の買い出しのついでに、ハルヒから買ってきてもらった牛乳だ。
(ハルヒはパシリ扱いもいいかげんにしてよ、と怒っていたけどまぁ気にしない)
どうして牛乳がめずらしいんだと思ったが、小さな紙パックに入っていれば確かに最初はそう思うんだろうと解釈した。
興味津々に近づいてきたあいつから、甘い香りがした。

「中身は何?」
「牛乳だよ」
「光君は牛乳が好きなの?」
「いや、普通だけど‥」

ただイライラすることが多いから牛乳でも飲んでカルシウムを摂取しようという安易な考えだっただけだ。
唐突なことを言うんだな、と思いながら僕はあることに気づいた。

『あいつが僕に質問した。』

そう気づいた途端、自然とにやけそうになる顔が見られたくなくて、僕は咄嗟にその飲みかけの牛乳パックをあいつに押しつけた。

「そんなに興味あるならあげるよ」
「えっ?」
「いいよあげる」

そのまま僕は走り去った。背中にあいつの視線を感じたけど、夢中で走った。
てゆうか、いいよあげるって何だよ僕。バカじゃん、飲みかけもらって喜ぶやつなんていないよ。

部活中も僕はその失態が頭から離れなくて、ずっと後悔していた。




「光、見たよ」
「え?」

ベッドに寝っ転がりながら雑誌を見ていた僕に馨が言った。
何のことかわからないけど、向かいの椅子に座った馨がニヤニヤ楽しそうな顔をしていたから、だいたい見当はついた。

「放課後、あの子と喋ってたでしょ」
「(やっぱりそれか)うん」
「ウケたよ。牛乳押しつけていなくなるんだもん」

馨は腹を抱えてケタケタ笑いながら、僕の失態を思い出しているようだった。
牛乳の効果はむなしく、馨のその態度にまたイライラしたけど、一つ気になることがあった。

「ねえ、あいつ僕が渡した牛乳どうした?」
「困った顔したけど普通に飲んでたよ」
「え…」
「よかったネ、間接キスじゃん」
「うっさいなバカ」

馨に言われて気づいたけど、そうか間接キスか。あの失態ばかりが頭に残って全然気づかなかった。
困った顔をしながらも普通に僕の飲みかけの牛乳を飲んだあいつ。そう思うと、また顔がにやけそうになった。
とりあえず嫌われてはいないな。いや、寧ろあいつも僕のことを好きなのかもしれない。

「光、好きなら告白しなよ」
「え」

馨は僕の心の中が読めるのか。そう疑わずにはいられないほど、タイミングのいい台詞だった。
好きなら告白ってそれは僕があいつを好きだという前提の話だ。まぁ実際そうなんだろうけど、僕の場合、

「認めたくないんだ」
「へ?」
「なんか知らないけど…認めたくない」

別に悪い意味じゃないよ。最後にそう付け加えて馨を見た。
また笑われるかと思ったけど、馨はちがった。なんだか優しく見守るような目で僕を見ていた。

「それって恥ずかしいからでしょ」
「…恥ずかしい?」
「そ、単純な理由だよ」

夏は暑い。馨が言ったことはそれくらい単純だった。そんなことも気づかない自分が無性におかしく思えた。


そうか、あいつは僕の太陽。
その照りつける光に負けないくらい、この気持ちが熱くなったら必ず伝えるって決めたんだ。



好きなんだけどね
(まだ内緒だよ)









080822
素敵企画「輝く未来の一歩手前で」様に提出させていただきました!えるさん、ありがとうございました(^^)





あきゅろす。
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