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鍛錬不足 





心の臓がこんなにも高鳴るのは、鍛錬が足りない証拠だ。






「真田様、」

彼女の口から洩れた声に、幸村は慌てて腕を空高く突き上げた。心地よい風が木々の間を吹き抜ける。
佐助の遣いで来た着物姿の女人が頬を微かに紅潮させ、彼を見詰めていた。
しかし、彼女よりも更に顔を赤くした幸村は、ただ口を忙しなく開閉する。your nameの体温が未だ残る両腕を気にしながら、幸村は彼女から顔を反らした。空の青と、木々の緑が視界に広がる。
視線を下に向けると、your nameがつまづいた石が、幸村を見上げていた。

「そ、某は鍛錬が足りぬ…まだ行けぬと伝えよ。」

自分のこの不規則な脈動の原因でもある石に苛立ちながらも、幸村は言い放った。
それを聞いたyour nameは一度頭を深く下げると、彼に背を向け小走りで去った。
横目で彼女を見届けた後、幸村は思い切り石を蹴り飛ばす。飛びはしたものの未だ視界から消えない石が、自分を責めているような気がして幸村は罰が悪くなった。
こんなものはただの八つ当たりだ。

幸村はその場に仰向けに倒れ込み、空に向かって小さく呟いた。

「鍛錬が足りぬのだ。」

この動悸も鍛錬が足りぬからだ。そう言い聞かせてゆっくりと瞼を落とした。


断じて、あの女人が恋しいからなどでは無い。某は違うぞ、佐助。



fin




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