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secret for you U





太陽のそれよりも熱く、優しくするから、俺だけのものになってくれ。
要するに、死ぬほど愛してるってことなんだけどな。



炎の瞳
頬に触れる柔らかいもの



地平線に半身を隠した朝日が、起きたばかりの目には眩し過ぎるくらいに輝く頃。俺は息を潜めて彼女の部屋の扉を開いた。扉の金具が静かに軋み、悲鳴を上げる。だらしなく伸びた赤を肩の後ろに払い、彼女の元へ歩み寄る。
彼女はベッドで穏やかに眠っていた。寝顔には、まだ幼さが残る。窓から丁度射し込んだ眩しい陽の光に、彼女は顔を歪め、耐えきれず寝返りを打った。
窓の外でひらりひらりと舞い散る桜の花弁が部屋に侵入を試みるが、硝子に拒まれ敢えなく落ちていく。その光景に小さく笑みを溢した俺を、更に俺自身が笑った。
ベッドに目を遣ると、愛らしい眠り姫が無意識に毛布を引き寄せる。

「your name……」

彼女のその仕草に、胸が締め付けられるかのような息苦しさが俺を襲った。こんなつもりで、ここに来た訳じゃないのに、いざ彼女の顔を見ると、やはり抑えられないものがある。
俺は彼女が眠るベッドに腰掛けた。突然沈んだベッドにyour nameが身動ぎする。しかしそれはほんの一瞬で、彼女はすぐに気持ち良さげな寝息を立て始めた。
くすり、
小さく笑う真紅の瞳に、この世で最も愛しい彼女は揺らいで消える。俺は黙って目を閉じた。らしくもなく、心臓は忙しなく脈を打っている。

君にとって、特別なものとなる今日という日を、俺に祝わせて下さい。君の特別は俺の特別。

再び目を開いて、彼女の顔の両脇に手を突き、それを肘からゆっくりと折り曲げていく。当然近付く彼女と俺との距離に、息をすることさえも忘れていた。
やがて二人の間は数える程も無くなり、真正面から向き合う形になっていた自分の顔を、横にずらす。本当は唇にしたい所だが、your nameの気持ちを無視したくない。尤も、頬にキスくらい、普段の俺ならほんの戯れと相違ないが。
耳に近い辺りに唇を触れる。異様に高鳴る心臓が煩くて、右手で胸をきつく抑えた。
窓が桜色に染まる程に、花弁が舞っている。そろそろ樹だけになるのでは無いだろうか、というくらい。たまに覗く空色が新鮮だ。
名残惜しい気持ちはあったが、静かに唇を離す。言うべき言葉を言って、直ぐに出ていこう。そうやって決めなければ、いつまでも居座ってしまいそうだ。
離した唇を、そのまま彼女の耳元へ近付ける。耳朶に触れると、微かに顔をしかめる。そういえば、今日でyour nameは大人と言っても良いくらいの歳になる。寝顔はまだ子供なのにも関わらず、だ。
寝顔の幼さに苦笑しつつも、俺は、今まで彼女に掛けたどんな言葉よりも優しく言った。

おめでとう。」

部屋を出ていく赤い男の背中を、赤い顔の彼女が見ていたことを、俺は知らない。

「…悟浄…?」







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