[携帯モード] [URL送信]
眠れない夜は 







ピッ、ピッピッ…

暗闇の中で光る数字。

もう何回目だろう。
彼の番号を並べて、通話ボタンを押す。
ワンコールで終話ボタンを押し、一人溜め息を吐いて。
そろそろ迷惑だろうな。

「御剣…さん……。」

ベッドの隅で、携帯を強く握り締め彼の名前を呟いた。

いつもは、こんなんじゃないのに。
困らせたくないから我儘なんて言わないし、電話もよっぽどの事が無い限り絶対にかけない。

「どうしちゃったんだろうなぁ。」

声が聴きたくて、震える指で番号を押したかと思えば、終話ボタン、終話ボタン。
それでも彼からの電話は鳴らなかった。
時計は深夜2時を指している。
もう寝てしまっただろうか、いや、嫌われたに違いない。

そんな考えを脳内に充満させてた時、突然手の中の携帯が震えだした。
急いで画面を見ると、着信 御剣さん。
胸が高鳴って、手が震えた。
バイブの影響なのかもしれないけれど。

我ながら馬鹿だ、と笑って、通話ボタンを押す。

「もしもし…」

『your nameッ!』

耳に響く彼の声。
いつものことで、彼は声の強弱が調整出来ないらしい。

「御剣さん…声、大きいですね。」

…可笑しい。
自分でもおかしなくらい落ち着いた声で話せた。
だが、それが彼は気に入らなかったようで、更に大きな声で私の名前を呼ぶ。

『…っyour name!人がっ、どれだけ心配したと…ハ、思っている…!』

ゴン…

おそらく運動不足であろう彼が息も絶え絶えに言った後、鈍い音が聴こえた。
それと同時に私の部屋にも同じような鈍い音が響く。

「…?」

数秒考えて、出た結論。
もしかして…、そう思い玄関に駆け寄る。

電話の向こうではまだ、彼の荒い息づかいが聴こえていた。
玄関の向こうでも。

ガチャリ、

鍵を開けて、ドアを押す。
少し重かったが、力を込めて強く押したら開いた。

玄関の横で、彼は息を切らして座り込んでいる。
静かに電話を切った。

「…御剣さん…?」

私がそう呼ぶと、彼は一瞬驚いた様な顔になり、その後すぐに立ち上がって、乱れた洋服を整える。

「your name、心配したぞ…。」

切なそうに笑う彼を見たら、たまらなく愛しくなった。
思い切り抱きついて、強く腕を締める。

「your name…?」

頬が赤く染まり、困っているのが手にとるように分かった。

「…なんで、連絡くれなかったんですか?」

消え入りそうな、か細い声で言ったから、彼に聴こえたかどうか分からない。

でも、しっかり聴こえたみたいで、彼の腕が私の背中に回ってきた。
暖かい。
そんな事を思い彼を見上げると、顔を歪ませ申し訳なさそうな顔をした。

「すまない…。裁判に負けたままでは情けなかったのだ。」

そう言って、いつものしかめっ面になったのが可笑しくて、顔が緩んでしまう。

「何を笑っている!」

「だって、結局来てくれた…」

「し、仕方あるまい…。」

怒られても尚、笑い続ける私を見て、彼は観念したように溜め息を吐いた。

「こんな時間だ、このままでは近所にも迷惑が掛かる。私は帰るぞ。」

淡々とそう言い、私の体を自分の体から強引に離して、彼は後ろを振り向いて歩き出す。
名残惜しくて、思わず彼の洋服の裾を掴んでしまった。

「む。」

自分がやったことに気付いた時には、既に彼は此方を向いていた。

「どうしたのだ、your name。」

「あ、えっと…。今日も仕事あるんですか?」

しどろもどろに私が聞くと、彼は寂しそうな顔で頷く。
それを見て一瞬俯いた私だが、諦めずに彼の洋服の裾を引っ張る。

「じゃ、じゃあ、今夜は私の家に泊まって下さい!朝御飯、作りますから…!」

行ってほしくない一心でそう頼むと、意外にも彼は微笑んだ。

「本当はこうしたかった。」

そう言って、私を抱きしめる御剣さん。
絶対に断られると思っていたから、私は固まってしまった。

「ほ、本当ですか…?」

私が不安そうな顔で彼を見ると、少し顔を強張らせる。

「二度も言わせるのか、本当だ。今夜はyour nameの部屋に泊まらせてもらう。」

言いながら、私の額に口付けた。
自分でしておきながら、彼は顔を真っ赤にする。

「…ふふ。」

「何が可笑しいのだ!」

彼に気付かれないように笑ったのに、すぐにバレてしまった。
そんな彼を宥(ナダ)めるように

「御剣さん、朝は紅茶ですよね?」

にっこりと微笑む。

「ぅ、うむ。your nameが淹れるのか。」

「えぇ、ティーバッグなんですけれど、構いませんか?」

私が微笑んだまま聞くと、彼は照れ臭そうに顔を背けて言った。

「your nameが淹れるのなら何でも良い。」

そう言われ、不覚にも顔が真っ赤に染まる。









「御剣さん、私、貴方のそういうところ嫌いです。」


「何故そんな事を言うのだ。
…ところでyour name、




今度こそはちゃんとキス、しても良いだろうか。」







fin...

(←→)

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!