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〇短編アトリエ小説〇
想いの記念日…マナケミア2より


「様…お嬢様!」


「…っ」


アトリエの椅子に座りながらずっと上の空のリリアに、ウィムはいつもの調子で声をかけた


「さっきからずっと遠い所ばかり見てまた妄想ですか?」


「ち、違うわよ。ちょっと考えごとをしていただけよ」


「大丈夫ですよ。お嬢様のことはちゃ〜んとわかってますから!」


そう言いながらウィムは笑っている。いつものリリアのことだからウィムは妄想だろうと思っていた。そしてウィムはリリアのそばからロゼのほうに歩いていった


だがこの時のリリアが考えていたのはただの妄想ではなかった…


「どうすれば喜んでもらえるかしら…」


実は明日はロゼとリリアが初めて出会った日なのである。リリアは以前にそのことを父から聞いていたので、ロゼに何かしてあげたいと思っていたのだ


「けれどロゼはこのことは知らないだろうから、上手く伝えないといけないわね…。もちろんウィムやアトリエのみんなにはばれないようにしないと…」


「アトリエのメンバーにばれたら、誰かが口を滑らせてしまうかもしれないし…」


リリアが特に心配なのは同じクラスのエトに知られることだった…


「あと…明日はやっぱり二人きりでロゼと過ごしたいもの…そうすればロゼだってきっと…うふふふふ…あ、いけないいけない」


「いつもは上手く伝えられないけれど、明日は素直な気持ちをロゼに伝えたいから…。あれも準備しないと…」


そういうなりリリアはアトリエを飛び出していった


「ん…お嬢様…?」


それに気がついたのはロゼだ。もちろんユンやウィムも気付いてはいたが、いつものことだと思っていたのだ


「お嬢様…いつもの様子と少し違ったな。何かあったら面倒だし、ちょっと見にいくか」


そう言いながらロゼはアトリエを出たのだか、校庭に来た所で見失ってしまっていた


「確かこっちのほうに来たと思ったんだが…」


そう言って立ち止まり、ロゼが辺りを見回していると…


「あ…嫌味男!こんな所で何してるのよ」


「…」


そんなウルリカを無視して、ロゼはリリアを探し続ける


「ちょっと!何とか言いなさいよ!」


「こっちは今立て込んでいるんだ」


いつも以上に何故か不安な気持ちになっていたロゼ…今のロゼには余裕がなかった。そしてロゼは走ってその場を去っていった


「もう、なんなのよ。さっきの高飛車女といい…やっぱりむかつくわね。そんなことよりはやくうりゅを探さないと」


その時ペペロンが走って向かってきた


「あ、ペペロン。うりゅは見つかった?」


「おねえさん、それが大変なことになったんだよう。とりあえずゴミ捨て場に来ておくれよう」


「ちょ、ちょっとペペロン引っ張らないでよ!」


かなり焦っている様子のペペロンに無理矢理引っ張られウルリカとペペロンはゴミ捨て場のほうへ向かっていった…




そのころリリアは誰も使っていないアトリエで調合をしようとしていた


「ここなら誰にも見られないわよね、早速始めないと間に合わないわね」


そう言ってリリアはレシピを取り出した。そのレシピにはシェアドリングの作り方と書いてある


「かなり難しそうね…わたくし1人で出来るかしら…。でも弱気になっている時間はないわね」


首を降りながらそう言うと錬金釜に向かって調合を始めた




〜次の日〜




「…う。ここは…」


リリアが目覚めたのは自分の部屋であった


「あら…何故ここに…確か昨日はロゼのために調合をしていて…」


「はっ!それで途中で眠くなってきて…調合は完成したはずだけど…」


そういうなりリリアは調合をしていたアトリエに向かって飛び出した。何故ここにいるのかも、今の自分の状況も確認せずに…


リリアにとってそれだけ大きな想いがあの調合には込められていたのだ


「いつもロゼには迷惑をかけてばかりだし、今日こそ素直に気持ちを伝えたい…」


リリアの中はロゼへの想いで一杯だった。それほどに今日は特別な日で…あの頃の純粋な気持ちで今の想いを伝えたい…リリアはずっとそう想って調合をしていた


「はぁ、はぁ…ついた。シェアドリングはどこかしら?」


アトリエに着くなりなりふり構わず錬金釜に近づき、辺りを探す。しかし…


「どこにも無い…どうして…。昨日は確かに最後までやったはず…。完成したはずなのに…」


そう言いながら必死に探すリリアの目に少しずつ涙が溢れていく


「このためにずっと前から準備していたのに…」


リリアは以前、シェアドリングをつくるためにこの辺りでは手に入らない材料を遠く離れた場所まで取りにいっていたのだ


その時はもちろん誰にもばれないように1人で行っていた


その時の苦労…それは全てロゼへの想いだった


「ロゼがわたくしの全てだから…だからわたくしは…」


リリアの頬をとめどなく涙が流れていく




「やっと見つけましたよお嬢様、こんな所にいたんですか」


リリアがその声に反応するまで少し時間がかかった


「…ロゼ…」


「昨日ここで寝ているお嬢様を見つけて、お嬢様の部屋まで運んだのに朝になったらいなくて焦りましたよ」


「だって…だって…」


ロゼの前でも涙は止まらない


「それで…こんな所で何をしてたんですか?」


ロゼは少し意地の悪い感じで聞いた


「昨日ここで調合をして、つくったはずのものを探しにきたのよ」


リリアは泣きながら一生懸命になって言葉を絞り出す


「でも…それが見つからなくて…それで…。実は今日はロゼとわたくしが始めて会った日で…それで…ロゼのために…」


しかしリリアは泣いているのでそれ以上言葉が続かない


「今日が…俺がお嬢様と…だから…」


何かを小さく呟きながら、ロゼは少し考えるようにした後…


「お嬢様の探しているものはこれですか?」


そう言ってポケットから差し出したのは他でもない、リリアが作ったシェアドリングだった


「どうしてロゼがそれを…?」


「昨日お嬢様を運んだ時にお嬢様の手の中にあったんで、預かっていたんですが…」


「よかった…よかった…」


そう言うとリリアはまた泣き出した…しかも今度は本格的に…


そしてリリアが落ち着いた頃…


「そのシェアドリングはロゼのために…作ったの…」


泣き顔を見られたのが恥ずかしいのかリリアは下を向きながらそう言った

「…お嬢様、失礼します」


「え…」


そういうなりリリアの後ろに回り込んだ


そしてリリアの薬指にシェアドリングをはめていく


「え…え…」


今だに混乱状態のリリアをおいて、ロゼもシェアドリングを薬指にはめていく


「お嬢様…ありがとうございます」


そういうなりロゼは後ろから抱き着いた


「あっ…」


思わず呼吸が乱れるリリア…


しばらくそのままいた後、ロゼはゆっくりと離れる。リリアは何かが抜けたように固まったままだが…


「今日は…特別な日ですから…」


その言葉と同時にロゼはもう一度、後ろから強く抱きしめた




「さて、そろそろ行かないとみんなが心配してますよ」


そしてロゼは立ち上がってアトリエを出ていこうとする


「ま、待って…」


「これからも…ロゼと…」


そこで言葉につまるリリア。しかし…


「大丈夫ですよお嬢様、ちゃんとわかっています」


そしてみたびリリアを抱きしめながらさらに近づいて…




「さて…お嬢様、そろそろ戻りましょう」


「ええ…」


そう言ってロゼと少し距離をおいて歩くリリア。それを見たロゼは…


「だからお嬢様はよいんですよ」


そう言いながらみんなの所に戻っていった


「ロゼ…ありがとう…」


誰もいなくなった廊下にリリアの想いが溶けていった




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