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仲良し 2/2


(……昨日は失敗だったなあ…)


次の日の朝、起床早々にレンはそう思った。思い返すのは昨日のカイトとのやりとり。明らかにカイトは困っていた。

敬語は嫌だ。それだけ伝えれば良かったのに結局今まで溜めていた願いが溢れて押し付けるように同等でありたいと言ってしまった。彼は単に、超が付くほどの真面目なだけなのに。
最新のVOCALOIDとして先輩に失礼のないよう気を遣ってくれただけ。そんな彼に昨日のお願いは彼の心遣いを踏みにじる結果にならないか。細かいところまで頭が回らないまま発言してしまったことをレンは後悔していた。

謝ろう。ベッドから起き上がり、ひとまず身なりを整えるため部屋を出た。






「あ。」

「…」


ばったり。まさにそんな表現が相応しい。
洗面所の扉を開ければ前髪をピンで止め、洗い終わった顔をタオルで拭いているカイトにちょうど出会した。


「おはよう。今朝も早いね。」

「…」


彼は毎日同じ就寝時間に寝て同じ起床時間に起きる。誤差二分というきっちりした行動はまさに彼の性格そのものだ。そんなカイトに洗面所で会ったということは自分の起床時間がいつもより早かったということなのだが、寝坊なんてしたことのない彼を褒める意味でそう言う。
謝るなら今が絶好のタイミングだろう。謝罪した後も気まずい空気にならないよう、少しだけ良い雰囲気を作ったレンが次に口を開いた瞬間。思いがけない言葉が彼から掛けられた。


「………、おはよう」

「え?!」


それはレンをとても驚かせた。いつもなら『おはよう』と挨拶をすれば『おはようございます』と敬語で返されるのがオチだったからだ。
ただの挨拶でもレンをフリーズさせるには充分な威力があり、聞き間違いかと思ってもカイトの言葉は止まらない。


「…今まで、申し訳なかった。まさか貴方がそこまで考えてくれているとは思わなくて…ずっと、後輩として失礼のないよう振る舞ってきた」

「う、ううん!ボクの方こそ、カイトの心遣いも知らずに押し付けるようなこと言ってごめん」

「いや……貴方に同じ土俵に立ちたいと言われた時、本当はとても嬉しかった。ライバルのような関係で歌えるのはすごく光栄だと思うし。でも…"光栄"と考えてしまう自分が、本当に貴方と対等になれるか不安で…」


それであの「考えさせて下さい」に繋がったのか。その場で直ぐに返事が貰えなかったのをレンは悲しく思ったが、カイトはカイトなりに考えてくれていたのだ。彼の心境を打ち明かされ、嬉しくて胸がドキドキと高鳴っていく。
そしてカイトは、レンに向き直った。
目は口以上にものを語る。正面から見た彼の瞳は未だ不安を持っていて…それでも逃げるわけにはいかないと、何処か決意を固めた色をしていた。



「でも…一晩考えて、やっぱり貴方と同等の存在でありたいと、本気で思えるようになった。こんな自分だが…貴方と対等でいてもいいんだろうか?」



それはレンがずっと思い描いてきた言葉。不安そうに聞いてくれたカイトに心の底から嬉しさが混み上がる。
これを肯定すれば、ようやく自分の望んだ関係を彼と築くことが出来るのだろう。同じ土俵に立ち、お互いがメインの歌声を。決して相手を蹴落としたりしない。駄目なところは駄目だと言い合って、一番ベストな状態で歌い合える関係に。

でもレンは、思わず笑ってしまった。

こんな時まで彼は、本当にクソ真面目だ。



「うーん、今のままなら駄目かな?」

「!な、何故…」

「だってボク"貴方"なんて名前じゃないもん」

「え?」


YESを貰えると思っていたカイトに思いがけない要求をしてみる。だって対等な関係を築くにはあまりにも他人行儀過ぎるんだもん。
面食らっているカイトへ、レンはいたずらっぽく笑った。



「ちゃんとボクの名前を呼んで?もちろん、"兄さん"じゃないんだよね。」



せっかく願いが叶うのに、こんな時まで念押しするなんて自分はやっぱりわがままだ。でもやっと、カイトと同じ土俵に立てるんだから。だからこそ、言って欲しいんだ。
言おうか言うまいか迷っているカイトへ笑顔で催促する。これで言うまいの方を選択されたら自分はどうすればいいんだろう。でも同じように対等な関係を望んでいるカイトなら言ってくれるに違いない。しかも、呼び捨てで。だって彼は超のつく真面目なんだから。
にこにこして待っていればついにカイトの口が開かれた。
数回ぱくぱくと音にならない開閉作業を行った後、かああと耳まで真っ赤に染まった頬。


「れ…れれ、レン、と、対等になってもいいんだろうか…っ!」


ガチガチに緊張した様子で瞳をぐるぐると渦を回しながらたどたどしい感じで言われた。
…あ、意外と照れ屋さん?KAITO V3はあまり滑舌がよくないと聞くがそれにしてもあからさまな反応にレンは微笑ましくなる。名前を呼ぶだけで緊張するとか可愛いところがあるんだなあ〜とのんきに思った。


「うん!改めてよろしくねカイト!名前呼べてえらいえらい」

「ッ!!!???」


あんまり可愛いから思わず背伸びをして頭をよしよしと撫でてしまった。結果、カイトはびっくりして数歩後ずさってしまう。
「あ、ごめん」。よく考えなくても頭を撫でるとか対等の関係を築いた男性にする行為ではなく、レンは反射的に謝った。が、それがカイトの羞恥心をますます煽ることになり、顔は更に赤くなっていく。


「っ、お、オレ!今日は朝からスタジオ入りだからもう行くぞッ!!」


まるで頬の赤みを振り払うように大股でレンの横を通りすぎるとそのまま声を掛ける余裕も与えず洗面所を後にする。
ぽつんと一人残されたレンは開けっぱなしにされた扉を見つめ、やがて現実を受け止めるように小さく一言。


「オレっ子、だったんだ。」


自分のことを"ボク"という子がボクっ子なら"オレ"という子はオレっ子になるのかな。
そんな割とどうでもいいことを真剣に考えてしまうぐらい、素のカイトは新鮮さに溢れていた。



end.
超のつく真面目なクーデレKAITO V3さんと魔性の天然小悪魔レンAppend君です。自分が子供だと認識したのが逆に心の成長になって大人っぽくなっているレン君。
カイトさんは躾の行き届いた大型犬を意識して書きました(ぇ)


20150215

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あきゅろす。
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