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想い人は魔王 2/2


「良かった。たんこぶにもなってないみたいだね」


近くの公園のベンチにカイトを座らせ、先程ぶつけたところの髪を掻き分けて診てみる。幸い傷にはなってないようだが、念のため蛇口の水で湿らせたハンカチをそこに当てた。
自分が助けるはずだったカイトはいつの間にかレンに助けられていたことに罰が悪そうにそっぽを向いている。


「それにしても、本当失礼なお兄さんだったね。V3のカイトに向かって街中で脱げなんて。いや、V3じゃなくてもアレはセクハラだよ」

「…あの男があそこまでオレを邪魔者扱いした原因は、レンにもあると思うがな」

「えー?何で?」


痛めてない方の髪をさらさらと撫でられ、転んでも泣かなかった男の子を褒める母親のようにあやしてくるレン。完全な子供扱いにカイトはずっとムスッとした顔のままだ。その素直じゃない顔がますます子供っぽく見えて、レンが内心「かわいいな〜」と思ってることは内緒だ。
にこにこと笑うレンに、カイトは少し睨みながら答える。


「貴方はどっち付かずな態度を取るからだ」

「どっち付かず?」

「本当に嫌かどうか分からない。実は自分に気があるんじゃないかと、思わせぶりな態度を取る」

「ボク、結構嫌がってたよ?」

「結構だから駄目なんだ。本当に嫌なら全力で拒否しろ。」


今だって、レンは許さないと言った男のことを『お兄さん』と呼んでいる。
赤の他人だから失礼なことを言いたくないのかもしれないが、赤の他人だからこそ無礼というのは働けるものだ。その普通の人とはちょっと違う考え方が、常識に囚われない魅力のようなものになって、相手を惑わせる。


「貴方は小悪魔のようだ。」


いや。寧ろ魔性か。ぶりっ子でも計算でもない、素で繰り出される魔性っぷりは、モテようと努力している者では決して得られない魅力だろう。


「そうかな?ボクは全然魔性じゃないよ」

「何故そう言える」

「だってカイトのこと落とせないもん。一番傍にいる人に恋されないなんて、魔性でもなんでもないでしょ?」


ふふ、といたずらっ子のように笑ったレンに。だからそういうところが魔性なんだ!!!と叫びたくなった。本人は全くその気はなくともこういう発言をしてくるから質が悪い。絶対に自分に気があると、自信を持たせてくれそうな言葉だ。

レンはまったく、そんなつもりはないのに………。

真っ赤になった顔を悟られないよう、レンの胸に頭を預ける。既に抱き抱えるようにして髪を撫でていたレンは大して気にした様子もなく、カイトの髪を撫で続けた。


(レンがこんなことばかり言うから、オレは……っ!)


その押し付けた顔が、泣きそうなぐらい歪んでいることも知らずに…。

沸々と沸き上がる感情のまま、何もかもぶつけてしまいたい。何でそんなことばかり言うんだ。オレのことどう思ってるんだ。…他の奴にまでそんなこと言うな。魔性でも何でも良いから、オレだけを見ろ―――。

でも。ずっと優しく髪を撫で続けてくれるその手つきが、本当に宥めてくれているみたいで自分の気持ちを鎮めてしまう。優しいからこそ、子供としてしか見てないんだと思わせられて…。


「…レン。」

「ん?」

「その……ありがとう。……助けてくれて…」

「んーん。気にしないで。ボクは大事なカイトを傷付けられて怒っただけなんだから!」


…今は、自己解釈で勝手に舞い上がっておくことにしよう。そう思えば、痛めつけられた頭も少しは報われるだろう。

一番身近な人に恋心を抱かれてることも知らないまま、レンはカイトが「もう痛くない」と言うまで、濡れたハンカチを押し当て続けた。



end.
一年の間にアペレン君の小悪魔っぷりが魔王に進化したようです(笑)
クーデレKAITO V3さんと魔性レンAppend君はV3さんがアペレン君にメロメロだったら良いなー…。


20160215

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あきゅろす。
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